「新ビジネスを志向しないファミリー企業は衰退する」/長野・諏訪の地場メーカーが「いいとこ取り」で立ち上げた新会社~小松精機工作所 後編
「東洋のスイス」と呼ばれた長野県諏訪市で、地元中堅メーカー「小松精機工作所」が立ち上げた新ビジネスの子会社「ヘンリーモニター」。いま、金属素材や土壌の分析、さらに高級トマト栽培などで商機をつかみつつある。小松精機の創業家出身のヘンリーモニター経営者らは、「日本のファミリー企業で同じようなことができる企業はたくさんある」とし、事業の変化が高速化した現代において、新機軸を志向しないファミリー企業は衰退すると指摘する。 【動画】車の内燃機が主力、でも「EV普及しても安心」の理由
◆ヘンリーモニターは「事業承継」のモデルケース
「平和な時こそ、次の準備を」。小松精機社内で、かねてから言われていることだという。 特に工業系の企業は、短期間で新ビジネスを展開しにくい。 科学的な根拠に基づいた次の展開を日頃から準備しておき、環境が変わったときにシフトするような形が望ましいと、小松さんは考えている。 黒田さんも「非常に有効で、どの会社でも同じようにやっていただきたいやり方だと思う」と話す。 重要な点は、本体企業の調子がいい時に行うことだという。 企業業績が落ち込んだ後、新事業を展開しても余裕がなく、資金や人材も限られる。 時間をかけた「事業承継」という面も持たせながら、新規事業を立ち上げることに意味がある。 また、工業系の知識だけでは会社経営はできない。 法律、対外交渉面、人材育成。こうした経験を積むことも経営者には必要だ。 それには、企業を引き継いでから経営を学ぶより、ヘンリーモニターのような子会社を立ち上げて経営手腕を磨くこと。 小松さん自身にとっても、事業承継の準備となり、かつ事業承継の手段にもなったという。
◆ヘンリーモニターが本体「小松精機」の価値観を変える
新しい子会社は、小松精機本体にも好影響を与えている。 多くの企業で新ビジネスの立ち上げに関わってきた黒田さんは、「どれだけ教育をしても、企業文化や行動はなかなか変わらない。 目に見える形で成果を示さないと」と話す。 伝統と実績がある小松精機のような企業は、保守的な面も持つ。 新たな事業を進める際、「せっかく業績いいのに」「どんなメリットがあるのか」「失敗したら誰が責任取るんだ」などの不満が噴き出しがちだ。 小松精機は、良くも悪くもファミリービジネスで、社員には少々下請け気質があったという。 だが、社外のビジネスは「できないもの」と思っていた社員のモチベーションは、ヘンリーモニターの始動により「外に出してくれる」と変わった。 ジョイントベンチャーのような動きも生まれている。 また、小松精機の売り上げの大半は、自動車の内燃機部品だ。 しかし、自動車産業は大きな転換期にあり、電気自動車(EV)にシフトするほど大きな販路を失う。 社会見学の小学生から「EVになったら、どうするんですか」と聞かれることがあった。 しかし、経営陣が率先して、見えない顧客にチャレンジしていくヘンリーモニターを立ち上げた。 社員の中に「新事業にシフトできる会社だ」という安心感も芽生えた。 小松さんは「大丈夫です、安心してくださいと、小学生にも言えるようになった。会社の中で一番良い影響だった」と話す。