震災で日常が破壊されたとき風俗店はどうしていたのか? 風俗ジャーナリストが見た〝震災とフーゾク〟
1月1日に発生した能登半島地震では、石川県南西端の加賀市にあるソープが被災し、山中温泉の『バースデー』、片山津温泉の『インペリアル タイペイ』『英国屋』が一時、営業休止に追い込まれた。3店とも素早く復旧し、すぐに営業を再開している。地元の常連客にとっては、さぞ、うれしくて、心強かったであろう。 【能登地震では被災】すごい……東日本震災で被災した風俗嬢たちに手を差し伸べていたソープ店 復旧したソープのうちの1軒、片山津温泉の『英国屋』は、東日本大震災のときに、被災した東北の風俗嬢の疎開先として、真っ先に手を挙げた店である。震災で店が休業し、働く場がなくなった女の子を受け入れたい、という支援をしていた。「うちには東北出身の女の子がおり、『何かできないか』と言われたのがきっかけ。さいわい寮があるし、こちらで働きたいという女性がいれば、受け入れることも可能かなと……」とは、風俗情報誌『俺の旅』に掲載された当時の店長のコメントだ。 これまで災害大国日本において、フーゾクはさまざまな復興支援をしてきた。震災の際には、いくつものソープランドが施設の無料提供を行っている。 ◆ソープランドが地域住民の〝お風呂〟に ’95年1月17日に発生した阪神・淡路大震災のときは、比較的被害の少なかった兵庫県神戸市福原のソープが、地震から1週間後に無料で浴室を開放し、地元住民に入浴できる場所を提供していた。 もともとソープの建物は莫大な設備投資をして建設されており、造りが頑丈なことから倒壊せずに残ったところが多かった。電気は通じたが、断水状態が続くなか、幸いボイラーはそのまま使えたため、近所のサウナや料理店から地下水を運び、お湯を沸かした。朝8時から夜の8時まで、個室すべての浴槽にお湯をため、近所の人たち、ボランティア、自衛隊などに1ヵ月以上にわたって無料開放した。家族でお風呂に入りに来る人も多かったという。 電気代、重油代などはすべて店の負担であり、相当の出費だったに違いない。だが、「困ったときはお互い様」と、お金は一切受け取らなかった。’11年3月11日に発生した東日本大震災のときは、福島県のいわき市小名浜のソープが被災者に対してお風呂を開放していた。宮城県仙台市のソープは、復興支援のための募金を行っていた。 また’16年4月14日に発生した熊本地震のときは、熊本市中央街のソープが、都市ガスの影響を受けない給湯用のボイラーが設置されている店が多かったことから、早期復興を実現。本震があった16日と翌日は休業したが、18日から営業を開始した。深刻なお湯不足の被災地では、風俗店本来のものとは別の需要が生まれ、客の半分ほどは、遊ぶというよりお風呂に入りたい、という目的だった。 ’18年9月6日に発生した北海道胆振東部地震では、札幌市すすきののソープが、発災の翌日に500円でお風呂を提供した。500円は収益ということではなく、あくまで銭湯としての燃料代であった。地震発生日の夜、店のスタッフが「銭湯営業になりました!」とツイッター(当時、以下同)上で投稿したところ、1万6000件以上リツイートされた。発災翌日の昼から、翌々日の朝にかけ、約70人が来店。県外からの観光客や家族連れ、公衆浴場を利用しづらい性的少数者の姿もあったという。いずれも地震によって、自宅や滞在先の風呂が使えなくなった人たちだった。 震災ではないときにもソープが被災者を支援した例がある。’19年9月9日に発生した令和元年台風15号のときは、千葉県千葉市栄町のソープがお風呂を無料開放したうえ、充電用の電源を提供している。店のスタッフの「台風被災の方に限り無料でお風呂を開放します。……少しでもお力になれたらと思います」というツイートは4500回以上リツイートされ、「素晴らしい心遣い」「一度も行ったことないけど、すっごく素敵だと思います」など、多数のリプライが寄せられた。店には被災者用の真新しいバスタオルや歯磨きセット、シャンプー、そしてボディソープなどが用意されていた。 いずれのケースも「難儀している被災者のためにお風呂を提供したい」「少しでも地元の役に立ちたい」「地域住民の助けになれば」という思いからだった。 後編「疎開する風俗嬢たちがいる一方で被災地へ向かう風俗嬢も…風俗ジャーナリストが見た〝震災とフーゾク〟」では、震災の被害に立ち向かった風俗店や、風俗嬢たちの行動などについてさらに詳しく紹介する。 後編はこちら「疎開する風俗嬢たちがいる一方で被災地へ向かう風俗嬢も…風俗ジャーナリストが見た〝震災とフーゾク〟」 取材・文:生駒明 ペンネームは『イコマ師匠』。『俺の旅』シリーズ編集長。徹底した現場取材をモットーとし、全国の歓楽街を完全踏破。フリーの編集記者として、雑誌やサイトの記事、自らのSNSなどで『俺の旅』を継続中。著書に『フーゾクの現代史』『ルポ日本異界地図』(共著)
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