IT業界の春闘ってどうなっているの?「主要企業」以外の春闘とは
今年の春闘では、労働者側(組合)の賃上げ要求に対し、自動車、電機、鉄鋼、流通など主要企業の多くが基本給を引き上げるベースアップ(ベア)の実施に踏み切りました。企業の業績が回復傾向にあることに加え、安倍政権による賃上げ要請が反映された結果とみられています。しかし、こうした大手企業で働く人はほんのひと握りです。すべての労働者のうち、7割近くは中小企業で働いています。では、主要企業以外の業界、たとえばインターネット業界の春闘はどうだったのでしょうか。
多くはもともとベンチャー企業
じつは、IT業界には組合のない会社が少なくありません。春闘は「企業別の労働組合」が給料アップなど労働条件の改善を要求する団体交渉のことです。交渉を有利に行うためには組合の存在が必要なのですが、楽天、グーグル、ドワンゴ、LINEなどの大手をはじめ、ネット企業には組合そのものがないケースが多いのです。 その理由のひとつは、こうしたIT企業の多くが2000年代以降に急成長したベンチャー企業であるためです。 「企業別の労働組合」は、高度経済成長期から「終身雇用」「年功序列の賃金」とともに“3種の神器”といわれ、組合員のほとんどが正社員でした。しかし、いまや働き方が多様化して正社員の数が減り、非正規社員が急増しています。労働組合の組合員の数も年々減り、昨年には雇用者のうち組合に入っている人の割合を表す組織率が17.7%にまで低下しました。ネット業界では成果主義を導入している会社が多く、また、中小にはもともと組合のない企業も少なくないため、団体交渉で待遇改善を要求するという概念自体がないのです。
中小企業の本番は4月以降
だたし、IT業界にもまったく組合がないわけではありません。たとえば「情報労連」には、NTT労組、KDDI労組など257の組合が加盟しており、「電算労」にはソフトウェア開発やプログラミングを行う多くの中小企業の組合が加盟しています。電算労によれば、今年の春闘では例年より上積みがあったのは事実で、定期昇給分を含め、現時点で平均2.05%ほどの賃上げ回答があったとのことです。 しかし、IT業界をはじめ、中小企業の春闘は4月以降が本番といわれます。中小企業の組合のうち、63.4%がまだ会社側と交渉中で、決着が5~6月になるところも少なくなくありません。主要企業のベア回答で注目を集めた今年の春闘ですが、待遇改善の流れが中小企業にも波及するのか、本当のヤマ場はこれから始まるのです。 (真屋キヨシ/清談社)