【ラグビー】日本代表・岡部崇人、スクラムに手応えも厳しい現実に「ハードワークしなくては」
真正面の相手は、自分よりも35キロも重たかった。それでも、ラグビー日本代表の岡部崇人は負けなかった。 「重かったですけど、日本代表の低さで戦えれば(問題なかった)。重さに低さが勝ったかなと」 10月26日、神奈川・日産スタジアム。ニュージーランド代表との一戦へ左PRで先発した。試合前のトレーニングでは「(状態が)ひどくならないように」と別メニュー調整のタイミングも設けながら、万全の状態でフィールドに立っていた。 ワールドカップで3度の優勝を果たしてきた通称オールブラックスは、両PRにタマイティ・ウィリアムズ、パシリオ・トシというそれぞれ体重140キロの巨漢を据えた。 岡部はその両者と、スクラムで首尾よく対抗。先頭のメンバーが入れ替わるまで、はほぼ互角に組めた。接近した間合い、低い姿勢、仲間同士でのまとまりを保ったからだ。 ニュージーランド代表の右PRとして108キャップ(代表戦出場数)を得たオーウェン・フランクスらの指導のもと、日本代表のFWは「塊」になったという。 「自分たちがオールブラックス戦に向けてやってきたことを、練習通りに出せた。でかい相手に対して日本らしく低く組む。プレッシャーをかけ続ける。それを全員(FW8人)でやり切った感じです」 走りでも光った。 前半17分頃、ハーフ線付近左中間で右PRの竹内柊平とユニットを作る。最初に球をもらったのは竹内だ。タックルされながらも前に出る。 ここに反応したのが、ほぼ真後ろにいた岡部だった。同10メートル線あたりでパスをもらった。22メートル線を破った。 「それが僕の仕事です。接点に寄り続ける。ハードワークし続ける。そのなかでTK(竹内の愛称)が抜け出して放った(ところに応じた)」 まもなくペナルティーキックをもらった。2分後、チーム2本目のトライに喜んだ。 勝負は落とした。前半20分頃まで12-14と対抗しながら、最後は19-64で敗れた。ハーフタイムまでの約18分間で5本続けてトライを奪われた。 接点の周り、大外と、その都度、空いたスペースへ球を運ばれたり、大型選手が小兵とぶつかる設計に沿ってビッグゲインを許したり。その様相を、岡部はこう振り返った。 「ラック(接点)に寄り過ぎている部分が多く、(フィールドの)外(側)に全然、人がいない。その間、オールブラックスは外にめっちゃ人がいたり、両サイドにアタックできる準備をしていたりして、自分たちが振り回され、1対1のタックルも外されて…」 防戦一方とあり体力が削られ、彼我の「肉体的疲労の差」も感じた。効率よく攻めるオールブラックスにこうも脱帽した。 「コミュニケーションが取れていて、パスするところはパスして、ボールキャリーするところはボールキャリーする…。無駄がなかった」 個人的にはフィジカリティで手応えを掴むも、より強く、より周りと繋がる必要性を感じさせられた。 「ハードワークしなくてはいけないし、選手の(戦術などへの)理解力も高めていかなくちゃいけない」 身長180センチ、体重105キロの29歳。今年代表デビューを果たしこの午後で5キャップ目を獲得した。 現所属先の横浜キヤノンイーグルスへ入るまでは、おもにFWの第3列でプレーしていた。より運動量の求められる働き場から、縁の下の力持ちが担ういまの位置へ移っていた。 関西学大で5年目のシーズンを過ごした際に監督だった牟田至は、その当時、前年度になかった3部練習を導入。部員を鍛え込んでいる。 牟田によれば、その厳しいメニューを岡部は「不満も言わずに黙々とやっていた」という。 日本代表の一員となったいまも、そのタフさは変わらない。終わりのない鍛錬に没頭する。 「PRの役割であるスクラム、地道にハードワークする部分は常に成長させられるし、限界はない。ちょっとずつレベルアップしていきたいです」 30日からの欧州遠征ではフランス代表、ウルグアイ代表、イングランド代表と順に戦う。 (文:向 風見也)