2024年は怒涛のバイオレンスアニメ『BLOODY ESCAPE』で映画始め!谷口悟朗が仕掛ける世界観とキャラクターの魅力を深掘り
「コードギアス」シリーズや『ONE PIECE FILM RED』(22)の谷口悟朗監督が原案とクリエイティブ統括を務め、2022年4月期にフジテレビ系列「+Ultra」で放送されたテレビアニメ「エスタブライフ グレイトエスケープ」。その世界観を受け継いだ新たな物語が展開する映画『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』が公開中だ。 【写真を見る】東京の街が“魔改造”!?「コードギアス」の谷口悟朗が作りだした独特の世界観に引き込まれる 本作で描かれるのは、“改造人間”となった男と彼を追う吸血鬼、そしてヤクザによる壮絶な三つ巴戦。新年早々から目が覚めるような刺激的な戦いが繰り広げられる本作の最大の見どころは、なんといっても本編の大半を占める怒涛のアクションシーンだが、それぞれのキャラクターたちが織りなすドラマも見逃せないポイントだ。そこで本稿では、独特な世界観のなかでもがくキャラクターたちにフォーカスを当てながら、本作の注目ポイントを紹介していこう。 ■テレビアニメシリーズと地続きながら、独立したストーリーが展開! 舞台は「東京」。といっても、誰もが知っている「東京」とはまるで違う、魔改造され分断された「東京」だ。減少傾向にあった人類は、種の繁栄のために生態系を管理するAIを作り、高い壁に囲まれたいくつかの街(=クラスタ)を形成。その内側の住人たちは大江戸城にある完全管理官僚機構の管理下で暮らしながら、それぞれのクラスタで独自の文化を築いている。クラスタ間の自由な往来は禁止されており、クラスタ外にはなにもない荒廃した土地が広がっているというのが本作を観るうえでまず押さえておきたい世界設定だ。 人体実験によって改造人間となったキサラギ(声:小野友樹)は、とある出来事がきっかけで転法輪(声:山寺宏一)率いる人形町クラスタのヴァンパイア部隊“不滅騎士団”から追われることとなり、新宿クラスタへと流れつく。 そこでキサラギは、クルス(声:斉藤壮馬)とその妹ルナルゥ(声:上田麗奈)と出会う。クルスに頼まれて、ヤクザ組織からルナルゥを守るボディガードを務めることになったキサラギだったが、彼が新宿クラスタに入ったことを知った不滅騎士団はキサラギへと迫る。さらに、仇討ちを誓うヤクザのヤオハチ(声:中谷一博)も加わり、事態は大抗争へと発展していくことに。 テレビアニメ「エスタブライフ グレイトエスケープ」では、クラスタ間を移動して新たなスタートを切ろうとする住民を手助けする“逃し屋”こと「エクストラスターズ」を主人公とした物語が描かれていたが、本作では異なる主人公でまったく異なる切り口から「東京」が分断された世界観を描写。作品のテイストもバイオレンスアクションへと進化し、一個独立した新たな物語として楽しむことができる。 本作で初めてこの世界に触れるという人もすぐに引きこまれること間違いなしの世界観には、“逃し屋”のキャラクターたちがテレビアニメ版に引き続き登場するので「エスタブライフ」のファンにとっても必見。ちなみにテレビアニメ版第2話には、『BLOODY ESCAPE』の主な舞台となる“新宿クラスタ”での物語が描かれているので、映画鑑賞後にテレビアニメ版をチェックすれば、この世界をより深く知ることができるだろう。 ■キサラギを軸にした“友情”の物語がアツすぎる! 映画の冒頭、クラスタの壁の外に広がる荒れ果てた荒野を行く人々の前に現れる不滅騎士団。そこへ颯爽と登場するのが、本作の主人公である改造人間のキサラギだ。義手義足で戦い、どこか虚無的な表情を浮かべる彼が、なぜ追われる身となったのか。そしてどこへ向かうことになるのか。そうしたキサラギの“過去”と“未来”をストーリー上のフックにしながら、彼を軸にした“現在”の人間模様を的確に描写していくのが本作の肝となる部分。そこにあるのはやはり、友情の物語である。 新宿クラスタで道端に倒れていたキサラギと、彼を保護するルナルゥとクルス。この3人の出会いが物語を動かしていく一つの要素。暴力と風俗にまみれた新宿クラスタから抜け出して違う生き方をしたいと願うルナルゥに、ヤクザ組織の情報屋として働いていて複雑な心境を抱える妹想いのクルス。 キサラギとクルスの過去は、過剰に深掘りされることはない。それでも中盤でヤオハチに襲われる場面で、それまでスタイリッシュな動きで敵と戦っていたキサラギが取り乱したようにヤオハチを殴る一連からは、2人がこの上なく深い絆で結ばれていることが容易に見て取れることだろう。 一見アウトローな一匹狼のようにも見えるキサラギだが、ルナルゥをガードしながら彼女に言われた「視界に入らないでください」という頼みを律儀に守ろうとする姿など、ところどころで見せる人間くささ。これがこのキャラクターにさらなる奥行きを与え、その魅力を高めているといえよう。 もちろんそれは、もう一つの重要な要素となる転法輪との関係性についても同様だ。物語上の“敵役”である転法輪だが、だからといって“悪役”というわけではない。彼には彼の正義があり、そしてヴァンパイアであるが故に隔離されて生きてきた哀しみが見え隠れする。2人は決して単純な敵対関係ではない。それでもキサラギを追わなければならない理由が転法輪にはあり、そのドラマこそが映画終盤の展開を一段とエモーショナルなものに仕立て上げていく。 劇中ではこうしたキャラクターたちのバックグラウンドを、最低限の説明にとどめながら的確に描写していく。自ずと観る側は、その行間に潜んだ“描かれない物語”に様々な想像をめぐらすこととなるだろう。クラスタから脱出したいと願う住民たちの多様な事情を描いたテレビアニメ版から作風はガラリと変わっても、根本にあるドラマティックな部分は保たれ続ける。むしろ密度が上がったことで、より強化された印象さえも受ける。 ■キャラクターのドラマ性が、怒涛のアクションをさらに盛り上げる! 主な舞台となる“新宿クラスタ”など、それぞれ実在の東京の街のカルチャーや風景を生かして描かれた内部の光景もまた見どころの一つであり、とりわけ新宿の雑多な街並みのディテールは見逃せない。 新宿クラスタの壁の内側で生まれ育ち、そこで学んでいくうちに壁の外側へと憧れを抱くようになるルナルゥ。将来が限定され、一元的な価値観に囚われた抑圧された環境から広い世界を求めるその姿は、劇中のような特殊な世界に限らず若者特有の心理といえよう。 ほかにも魅力的なキャラクターは多数登場するが、なかでもMVPと言える働きを見せるのが不滅騎士団の問題児ジャミ(声:内田雄馬)だろう。組織の輪を乱すかのように一人で突っ走り、ちょっぴり愚かで頼りなさげでありながらも、そこには闇雲に上に従うだけではなく自らの美学に基づいた忠誠心が見受けられる。それもまた、彼の正義なのであろう。どんなことがあっても持ち前の朗らかさを失わずに共に戦うジャミ。今後も拡大していくであろう「エスタブライフ」ワールドのなかで、深く描かれてほしいキャラクターだ。 こうしたキャラクターたちの魅力に触れ、その背景にあるドラマ性に想像を膨らませながら作品を観れば、終盤に訪れる怒涛のアクションシーンはさらに熱く、スリルも見応えも倍増することだろう。新宿クラスタの壁の外で繰り広げられる、ヤクザ組織を巻き込んだ熾烈な三つ巴戦の大迫力に、クライマックスでの列車を使った攻防戦。まるで実写のアクション映画を観ているような臨場感を携えながら最後の最後まで派手さの先にあるドラマティックなアクションを展開させる胆力からは、谷口監督の手腕が遺憾無く発揮されていると見える。 そして一寸も弛むことのない緊張感で駆け抜けていった逃亡劇の果てに、想像もしていなかった感動を味わうことになるだろう。2024年の映画初めにぴったりの圧倒的なエンタテインメントを、是非とも劇場で見届けてほしい! 文/久保田 和馬
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