なぜ久保建英はゴールにこだわらないのか?サッカー日本代表で「余裕が出てきた」冷静な自己分析【アジアカップ2023コラム】
サッカー日本代表は19日、AFCアジアカップカタール2023グループリーグ第2節でイラク代表と対戦する。14日の今大会初戦でベンチスタートとなった久保建英の出場はあるのか。日本代表通算3得点に留まるレフティーは、アジアカップでどのような姿を見せてくれるのだろうか。(取材・文:元川悦子【カタール】) 【画像】サッカー日本代表、イラク戦予想フォーメーションはこちら
●久保建英のプレーがイラク代表戦の鍵を握る 日本代表のグループリーグ突破を左右する19日のイラク代表戦が迫ってきた。4-2で辛勝した14日のベトナム代表戦を終え、チームは中4日で調整を実施。伊東純也も「中4日は選手にとって問題はない」と断言。彼が非常にタフな選手ということを差し引いても、コンディション的には問題なさそうだ。 ここまで部分合流の三笘薫、16日に首痛でホテルで静養した渡辺剛以外は全員がピッチに立てる状態と見られる。そこで気になるのは、森保一監督がベトナム戦の先発メンバーをベースにするのか、それとも先々を考えてターンオーバーに踏み切るのかだ。 2年半後のFIFAワールドカップ26を視野に入れると後者を選択することも考えられるが、イラク代表はグループ最強の敵。ある程度、前回活躍した選手を残しつつ、12月31日のフラム戦で足首を負傷していた冨安健洋ら数人を新たにスタメン抜擢することになるだろう。 ベトナム代表戦で84分からピッチに立ち、早速、上田綺世の4点目をアシストした久保建英に関しては「頭から行けそう? どうですかね、分かんないです、監督次第なんで」と言葉を濁しており、どうなるかは五分五分と言っていい。 ただし、仮にベンチスタートとなったとしても、前回より出場時間は確実に増えるはず。「前回の相手とはちょっと違って、今度は高さだったり速さだったりっていう違った武器で勝負してくると思うんで、違う展開になると思いますけど、柔軟にチームとして対応していければなと思います」とイラク代表の特徴を頭に入れながら、攻撃の組み立てを考えていくという。 ●「僕のもともとの武器」「余裕が出てきている」 確かにイラク代表は強度と迫力に秀でたチーム。15日のインドネシア代表戦でも、スピードある前線アタッカー陣が相手の守備をかき回し、ボランチ、ウイング、サイドバック(SB)が流動的なポジション取りで巧みにマークをかいくぐっていた。守備面の球際の強さも特筆すべき点。基本布陣は4バックか5バックかどちらになるか分からないが、センターバック(CB)は高さと強さを備えた屈強な面々だ。久保が出た場合は人数をかけて徹底的にマークしてくるだろう。 「僕にマークがたくさんつけば、その分、他のフリーの選手、サイドだったり、後ろから2列目に動き出してっていうのが出てくると思うんで、そういったところを使う練習は代表では毎回やっている。そうなってくれれば、逆に簡単なゲームなるかなと思いますけどね」と久保は目を輝かせた。 確かに彼は相手の出方を見ながらの駆け引きやゲームメークには絶対的な自信を持っている。14日のベトナム代表戦でもピッチに立つや否や、緩急をつけた仕掛けやお膳立てで敵をかく乱し、決定的なチャンスを作っていた。 「(第2次森保ジャパンは)前に決定力ある選手が増えたので、パスを出したら決めてくれる選手がたくさんいる。それに、シュートだけじゃなくてパスが僕のもともとの武器。無理にシュートに行かず、(パスを)出せるときに出すというように切り替えられるようになった余裕も出てきているのかなと思います」と本人もエゴイストになることなく、フォア・ザ・チーム精神を前面に押し出すようになったことを明かす。 ●「欲張らなくてもいい」久保建英が得点に貪欲ではない理由は… 実際、久保がトップ下に入る時は周囲にいる選手の特徴やストロングをより一層、引き出せるようになっている。イラク代表戦であれば、上田綺世、堂安律、中村敬斗あたりが前線に並ぶと見られるが、彼らといい距離感を保ちながら、敵を引きつけ、フリースペースを突くといった形を数多く作れるはず。 そういったプレーこそが、南野拓実との明確な違い。南野が入った時は前線が2トップに近い状態になる傾向が強いが、久保はサイドにも中盤でも幅広く動ける。右に堂安が陣取っている場合は、頻繁にポジションチェンジをしながら攻撃に変化をつけるのも得意だ。久保の創造性やアイデアは卓越したものがある。その武器を駆使して、周囲の決定機を演出する仕事がまずは必要になってきそうだ。 そのうえで、自分自身もゴールという結果を貪欲に狙いたいところ。ここまで代表30試合に出場している久保だが、まだ得点自体は3と少ない。レアル・ソシエダで昨季9ゴール4アシスト、今季もまだ半分ながら6ゴール3アシストという傑出した数字を残しているアタッカーとしては、やはり物足りないと言わざるを得ないだろう。ただ、久保自身は異なる見方で代表活動に臨んでいる。 ●「アドバンテージも生かしつつ…」 「ゴールも取れたらベストですけども、別にクラブで取れてるんで、代表でもそんな欲張らなくてもいいかなと。(ゴールは)取れる時は取れればいいし、(パスを)出す時は出せばいい。自分のゴールで勝利できればベストですけど、サッカーは個人スポーツじゃないんで、取る人が取って勝てればいいかなと思います」 ただ、通算24ゴールを挙げ、2004年のアジアカップでMVPに輝いている中村俊輔が24点、同31ゴールをマークし、2011年のアジアカップ制覇の原動力になった香川真司ら偉大な先人たちを超えるためにも、得点ペースを挙げたいところ。マジョルカ時代の盟友である韓国代表のイ・ガンインも初戦・バーレーン戦で2ゴールを叩き出しているだけに、負けたくない気持ちもあるはずだ。 そして何より、久保がゴールを決めてくれれば、日本代表、そして日本全体が盛り上がる。今の彼はそれだけ影響力の大きな存在。そのことをピッチ上で証明しなければならない。 「僕らが本命候補の一つであるのは間違いないですけど、初戦を見た人は分かった通り、すごく苦戦しましたし、タフな試合が続くと思う。なので、しっかり一戦一戦、集中していくことが大事ですね。今のところ、決勝トーナメントの準決勝くらいまでは中4日だと思うので、W杯に比べて1日多いというアドバンテージも生かしつつ、チーム戦で勝っていきたいです」 久保の思い描く通りの展開で今大会を乗り切っていけるのか。とにかくイラク代表戦はスッキリと日本代表らしい勝利を求めたい。 (取材・文:元川悦子【カタール】)