日本ハム・栗山CBO リンゴの木から学ぶ「機」を見極める大切さ
侍ジャパン前監督で日本ハムの栗山英樹チーフ・ベースボール・オフィサー(CBO=63)による連載「自然からのたより」。今回は、この時季つけた小さな実が秋には大きく真っ赤な実になるリンゴの木の教えについて。リンゴの木は剪定(せんてい)時期を間違えると、秋にほとんど実がならないこともあるほど、タイミングが難しい。人の成長、苦境からの立ち直りなど、人間にとって「機」の大切さを教えてくれる。 今、自宅のある北海道栗山町の栗の樹ファームは、木々たちの葉の色で真緑に染まっている。サクラの季節が終わって、多くの花を咲かせていたリンゴの木も花が散り、小さな実をつけた。 以前は100個以上のリンゴを収穫したこともあるが、剪定の時期を間違うと実がならないこともある。雪が多くて枝が折れたりしたこの冬は、タイミングが分からず、怖くて剪定作業ができなかった。秋にはどれくらい真っ赤な実がなるのか。そんなリンゴの木から、改めて教えられることがある。 これは「時の書」ともいわれる易経にある言葉だ。あらゆる事象のわずかな兆し(機)を知ること、それは神の領域である、という意味。この「機」つまりタイミングを見極めるのが、監督という仕事をやればやるほど難しかった。剪定時期一つで収穫が大きく変わるように、選手たちにどのタイミングで何を言うか。苦しんで、苦しみまくるところまで放っておかないといけない時もあれば、そこを越えてしまうとダメになることもある。そのタイミングをいつも計っているけど、正解はない。それこそ神の領域であり、このタイミングが正解だと思ってしまったら、その先の成長もない。 (日本ハム監督時代に)大谷翔平(現ドジャース)の「リアル二刀流」を始めた16年。それまでは「投げていると打席の感覚が違う」と本人も言っていて、技術と体力が上がっていかないと一度に投打をやった場合に両方ともつぶれてしまう可能性があった。では、どこでやるか。それが重要だった。あの時に「このタイミングだ」と思ったけど、もっと早くからできたかもしれないし、もう少し待った方が良かったのかもしれない。投打で結果が出て、チームも日本一になって、良かったように見える。でも、正しかったのかどうかは今も分からない。 ただ、正解はなくても、その「機」を知ろうと考えを尽くすことに意味がある。「相手のために考えているのか」。リンゴの木が、そう問いかけてくる。 ▽易経 儒教の経書の中で特に重要といわれる「四書五経」。中でも「易経」は最も古い書とされ、万物の真理が書かれている。「時の書」ともいわれ、論語の中で孔子が「五十にして易経を学び直せば、人生に間違いはなくなるだろう」としており、多くの偉人が座右の書にするほど。自然の摂理と人間の関係が古来の経験からまとめられている。 ▽16年の大谷のリアル二刀流 投手と打者で同時出場する「リアル二刀流」で、投手では21試合に登板して10勝4敗1ホールド、打者では104試合に出場して打率・322、22本塁打、67打点の驚異的な成績を残し、日本ハムの日本一に大きく貢献した。7月3日のソフトバンク戦では「1番・投手」で出場して先頭打者アーチを放ち、投げても8回5安打10奪三振の無失点で勝利投手。投手の先頭打者弾はプロ野球史上初の快挙だった。 ≪日当たりの確保など剪定には多くの配慮が必要≫寒さに強いリンゴの木は一般的に1月から3月までが剪定時期。開花が春のため、良質な花を咲かせるためには、冬に剪定作業を行うことになる。ただ、その作業には専用の道具も必要で、日当たりの確保など多くのことに配慮しながら行わなくてはならない。そのため剪定のやり方一つで、品質や収穫量などに大きな影響が出てくるという。