遊牧民というより「定住牧民」が正しい ── ふるさと内モンゴルの現状
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。 ----------
2001年に来日し、気づいたらすでに16年経った。 私は、内モンゴル高原の中部に位置するシリンゴル盟のシローンフフというところに育った。草原というより、砂漠地帯で緑豊かなオアシスがたくさんあるところである。 子供の頃は夏休みになると、シリンホト市から田舎に遊びにいくのが一番の楽しみだった。その時、私の地元では季節ごとではなく、夏と冬の二回のみ遊牧が行われていた。夏はゴゴステインゴルというオアシスの小さな川の両岸に、親戚ら7、8家族からなるホトエールというコミュニティを結成し、夏を過ごしていた。 何年前から内モンゴルでは遊牧が完全にできなくなり、いろいろな社会問題が起きていた。子供の時代に当たり前だったことが気づいたら、すでになくなっていた。 ある日、日本人写真家が長年、モンゴル国を取材し、彼らの何気ない日常生活や文化などを写真に記録した一冊の写真集に出会った。その写真集を見て、感動し、動揺もした。 まさしく私もこれをやるべきだと思った。 自分が愛するモンゴルの全てを記録し、消えゆく遊牧文化や彼らの日常を記録し、次世代に伝えるべきだと覚悟し、それが自分の使命と悟った。
内モンゴルは日本と同じく、四季がはっきりしている。冬と春は寒くて、風が強い。夏は暑く、朝晩の温度差が大きい。乾燥しているので、風が爽やか、日本よりは過ごしやすい。ただ、最近は地球温暖化の影響で年々雨が少なくなり、干ばつが続いている。秋は草刈りの忙しい時期であり、家畜が一番太り、売買される季節なので、収穫の秋でもある。 内モンゴルでは遊牧民と言っても、従来の季節ごとに牧草地を替えながら移動する遊牧生活をしている人々はほとんどいなくなり、定住しながら牧畜を営んでいるのが、現状であり、むしろ「定住牧民」と言った方が正しいのではないかと思う。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第1回」の一部を抜粋しました。 ---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。