【漫画家に聞く】後からピアノを始めた友人がコンクール入賞……「好き」と「才能」の間で揺れるSNS漫画が胸を打つ
「好きこそ物の上手なれ」という言葉があるが、その対象が本当に「好き」には見えない人が自分よりずっと「上手」なのはよくあることだ。その理不尽を「才能」という言葉で片付けてしまうこともできるが、特に青春期における「好き」と「才能」の関係性は複雑で難しい。8月下旬にXに投稿された創作漫画『私が私を知るために』は、そんな「好き」と「才能」の狭間で揺れる高校生の姿が描かれた瑞々しい作品だ。 「好き」と「才能」について考えさせられる漫画『そもそも「好き」って、なんだろう』 小さいころからピアノに打ち込んでいる男子高校生・レン。そんなレンが奏でるピアノの音が好きな友人・ユウに、レンはユウ自身もピアノを弾くことを提案する。最初は自信なさげだったユウではあるが、ピアノにどっぷりハマり、コンクールで受賞するレベルまで急成長。ユウはピアノを始めたことでキラキラした表情を浮かべることが増えた一方で、その才能を目の当たりにしたレンは冷静ではいられなくなりーー。 本作を手掛けたharuyaさん(@H_r3a)は、現役大学生。「好き」な漫画制作で、「好き」について描いた本作がどのようにして描かれたのかなど話を聞いた。(望月悠木) ■「私の好きってなんだろう?」 ――『私が私を知るために』誕生の経緯を教えてください。 haruya:私のSNSに対する向き合い方が背景にあります。まず私は中学1年生からsnsでイラストを投稿しているのですが、やはりいいねやRT、フォロワーの数が気になり、「“いいねがもらえるようなイラスト”を描かなければ」と思うことがありました。もちろん、SNSの数字は大切なので、その辺りは理解しています。 ――結構無理して制作していたのですか? Haruya:はい。「自分の好きなように絵を描きたい!でも大衆受けもしたい!」と、何かにつけて「でも」と言ってしまう状況です。「私の好きってなんだろう?」「好きなことをする意味ってなんだろう?」と悩み、そこで「作品としてこの感情を残そう」と考えて本作の制作を始めました。 ――ちなみに「絵」や「スポーツ」などの選択肢もありそうです、なぜ「ピアノ」を選んだのですか? haruya:絵の葛藤に関する漫画は以前制作したことがありましたので、今回は取り上げませんでした。また、スポーツに関しては、私自身全く経験がなかったため、選択肢にはなかったです。ピアノは習っていたことがあり、「鍵盤を描いてみたい!」と思ったことからピアノを題材にしました。 ――後から始めたユウにどんどん追い抜かれ、焦燥感を募らせるレンは見ていてしんどかったです。 haruya:レンの心情については、自分よりも経験の浅いユウに抜かされることに加え、ユウ自身が才能や賞に興味がないことに悔しさを覚えつつも、ユウの優しさや素直さを思い出して“悔しさや怒りを抱く自分”に情けなさを感じている、という部分を意識して描きました。「2人とも良い子だからこそ、どうしようもできない状況が伝われば良いな」と思います。 ――その一方で、「好き」を見つけてキラキラした表情を浮かべながらユウの心情も印象的でした。 haruya:ユウの心情ですが、「熱中できるものを見つけて夢中になっている純粋さと、その純粋さが“悔しい・苦しい”という負の感情と出会った瞬間の化学反応を描写できたら良いな」と思って描きました。私自身、本作を制作する中で、「何かに熱中している時、辛い、苦しいと思うことはあっても、それは何かの物語の始まりなのかもしれない」と思うようになりました。 ――2人とも合格にせずに、ユウだけ落とすラストを選択した狙いは? haruya:「長い間努力を続けているレンと、つい最近ピアノを始めたばかりのユウが同時に合格する、というのは読者としてモヤっとするのではないか?」と思いました。しかし、「レンだけが合格してユウは不合格」という終わり方ではなく、「ユウは落ちたけど、それをキッカケに彼なりの新しい物語が始まる」という終わり方にしています。 ――今後の漫画制作の目標を教えてください。 haruya:いつか漫画家になれたら良いなと思っており、これからも楽しく制作をしていく予定です。普段はXでイラストを中心に投稿しているので、ぜひチェックしてもらえればと思います!
望月悠木