航海士バートレットに扮したリス・エヴァンスがいぶし銀のサポーティングアクト

　では、この映画で私たちの姿はどこにあるのだろう？　映画のもう1人の主人公が、コーチを務めるボニーだ。ナイアドとは30年来の親友。苦楽を共に味わい、時には耳の痛いことも面と向かって言ってきた。歳を取り、新しいことを始めるにはいささか体力も気力も衰えたかもしれないが、高みを目指すナイアドに惹かれ、伴走することで、かつての祝祭的な高揚を再び得ることができるかもしれない。他人の人生に夢を託すボニーの姿にジョディ・フォスターという天才が真実味を与え、多くの観客にとっての拠り所となっている。ボニーが満身創痍のナイアドを突き動かす姿は感動的だ。また海峡越えで重要な役割を果たす航海士バートレットに扮したリス・エヴァンスも味わい深く、近作『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』に続いていぶし銀のサポーティングアクトである。 　いかなる個人競技も周囲の助けなしに偉大な記録を生み出すことはできない。平均寿命が大幅に延び、人生百年と言われる時代。ナイアドとボニー、そしてベニング、フォスターら年輪を重ねた彼女たちの在り方に、私たちはどう生きるかだけではなく、誰と生きるかというヒントを得ることができるかもしれない。