<春の頂へ・23センバツ智弁和歌山>/上 再起託された新チーム /和歌山
気持ちを切り替えるのは、簡単ではなかった――。2022年夏の甲子園の後、新たに主将となった青山達史(2年)の心は、まだ短すぎた夢舞台に残っていた。 21年夏に続く連覇を目標にし、22年春季近畿地区大会で絶対王者・大阪桐蔭も破って期待された智弁和歌山は、国学院栃木に初戦敗退。自身は5番打者として2安打と気を吐いたが、相手の継投にチームは打線のつながりを断たれた。日本一を目指してきた赤い軍団。新チームは失意からのスタートとなった。 「夏のメンバーに入っていなかった選手が新チームでレギュラーに入る。一から競争だ」と中谷仁監督は発破をかけた。青山は過去を振り切ろうと言い聞かせた。「未来を変えるには、今やるべきことに取り組んでいかなければ」 ◇3年生ら支え 主将就任は、引退した3年生の意見などを参考に決まった。新チームの出発を助けたのは、悔しい思いをした3年生たちだった。投手の清水風太(2年)は言う。「キャッチボールをしながら、投球のアドバイスだけでなく、甲子園の雰囲気なども話してくれた」 シートノックに交じりつつ、守備のコーチを買って出てチームを見守ってくれた先輩の姿もあった。「なかなかないこと」。その成功も失敗も、過去の経験を糧に、自分たちに再起を託した3年生の思いを青山も感じた。「思う存分暴れてほしい」と前主将の3年生、岡西佑弥が願う通り、未来を向いた新チームは順調な滑り出しを見せた。 県下新人戦は、準々決勝で和歌山東にコールド勝ちして県2次予選進出を決め、決勝では市和歌山を19安打の猛攻で圧倒。22年センバツ出場の2校を退けたのをはじめ、全試合二桁得点と打撃力を見せた。県2次予選では日高中津、海南を共に無失点で抑え、2年ぶり26回目の近畿大会出場を決めた。1位進出をかけ、決勝の近大新宮戦を迎えた。 ◇初の継続試合 決勝は降雨のため、22年夏の和歌山大会から導入された継続試合が県内で初めて適用された。両チーム無得点で、五回から再開された試合。これまでにない経験に「ワンプレー、先取点で、そのまま流れが決定してしまう恐れがあった」と中谷監督。しかし、リードオフマン・多田羅浩大(2年)の出塁から杉本颯太(2年)が好機での1本を放って早々と先制したチームは、心配を杞憂(きゆう)に終わらせた。ここぞの適時打から、打線は下位にもつながった。重苦しい展開から解き放たれた試合。雨上がりの秋空は、夏の空気も洗い流したかのようだった。【大塚愛恵】 ◇ 「日本一を狙う力がある」と自負し、智弁和歌山は春の頂点を目指して厳冬の中で牙を研ぐ。3年ぶり15回目のセンバツ出場を決めた新チームの軌跡を追った。 ……………………………………………………………………………………………………… 【新人戦】 ▽2回戦=12―1日高中津▽3回戦=10―3田辺▽準々決勝=10―0和歌山東▽準決勝=10―0箕島▽決勝=19-3市和歌山 【県2次予選】 ▽準々決勝=5-0日高中津▽準決勝=10-0海南▽決勝=6-1近大新宮