相続先がない財産は「国庫行き」…おひとりさまは財産を“身内以外”に譲るのも選択肢【司法書士が助言】
おひとりさまの場合、財産を譲る相続人がいないというケースも少なくありません。誰にも相続されなかった財産は国庫に納められることになりますが、あらかじめ遺言を残すことで「生きた財産」として活用する方法もあります。本記事では『「ひとり終活」は備えが9割』(青春出版社)から一部抜粋し、おひとりさまが終活で検討したい「財産の譲り方」について解説します。 都道府県「遺産相続事件率」ランキング…10万世帯当たり事件件数<司法統計年報家事事件編(令和3年度)>
相続人不在で国庫に入る遺産は年600億円に上る
突然ですが、〝600億円〟という数字、何だと思われますか? これは相続人が不在で遺産を承継する人がおらず、国に納められた年間の総額です。この額は年々増加しており、相続人がいない相続がいかに増えているかを如実に表しています。 相続人不存在というのは、法定相続人が1人もいない状態のことです。亡くなった時に配偶者はもちろん、子ども、親、兄弟や姉妹、そして甥・姪すらいないということです。 なかには相続人がいたにはいたが、何らかの事情で相続を拒否するケースもあります。「相続放棄」と呼ばれるものです。亡くなったことを知り、自分が相続人であると知った時から、3カ月以内に家庭裁判所に対し申し出を行い、認められれば本来の相続人から外れます。 ただ、相続放棄については、プラスの財産より負債のほうが多い、処分に困る不動産があるといった特別な事情がある際に行われることがほとんどです。 とすると、先の600億円という数字の内訳の多くは、初めから相続人がいないおひとりさまが遺した財産が大部分を占めると推察されます。 実際のところ、おひとりさまであっても、自分が遺した財産を積極的に国に納めたいと希望する人は少ないように感じます。これまで実務を行ってきた中でも、何かしら自分が希望する人や団体に遺したいと考えている方はたくさんおられます。 問題は、特定の人や団体を指定できるかということにかかっています。どのような団体がいいかなど、こちらからアドバイスはできますが、結局は本人しか決定し得ないことなのです。 自分の希望を叶えるために遺言というしっかりした形を遺しておくのか、結局、手をつけられないまま終わってしまうのかで、その後の流れが大きく変わってきます。 相続人がいない、あるいは相続人以外の人や団体に遺したいという思いがあるなら、この章のテーマとなっている遺言を作成することになります。遺言があれば、相続人以外の人に遺産を渡すことができますし、国庫帰属を回避することができます。 おひとりさまにとって、遺言は自分の希望を叶えるための最大の相続ツールだといっても過言ではないでしょう。