『虎に翼』はとんでもなく面白い朝ドラになる! “朝ドラらしくない”「語り」に注目
NHK連続テレビ小説『虎に翼』が、4月1日よりスタートする。 ヒロインを務めるのは伊藤沙莉。本作は、日本初の女性弁護士で後に裁判官となった一人の女性・猪爪寅子を描いたリーガルドラマである。 【写真】伊藤沙莉が法服を着た『虎に翼』メインビジュアル 筆者は先んじて試写にて、第1週「女賢しくて牛売り損なう?」を視聴した。台本を読んでいた時点で抱いていた「これはとんでもなく面白い朝ドラになるのではないか」という予感が確信に変わったのと同時に、「朝ドラらしくない朝ドラ」でもあるなと感じたのだ。 本作の特徴の一つが、語りの多さ。今作よりシナリオ集が放送後1週分ずつ電子書籍にて販売されることが発表されているが、頻度としては見開き2Pにほぼ必ず語りが登場するほどの度合い。例えば、伊藤沙莉がナレーションを務めた『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)ぐらいのイメージだ。 しかし、映像になると不思議としつこくはない。そこが尾野真千子の凄さ。寅子を中心とした猪爪家の丁々発止の会話劇に自然とインサートし、ドラマ全体のリズムを作っていく。脚本を担当する吉田恵里香もNHKドラマ・ガイド『連続テレビ小説 虎に翼 Part1』のインタビューの中で、工夫している中の一つが「語り」であると話している。 第1週では、戦前に制定された法律が女性に対して不平等なものであったことが描かれる。それが、婚姻状態にある女性は財産の利用などの行為において、夫の許可がなければ認められない「無能力者」であるというもの。この法律は戦後に改正されたが、吉田は「法律は変わっても、女性をさげすむような価値観は変わっていないのでは」と思うことが今もあるという。そこを難しくなく、ポップに描くために機能しているのが尾野の語りだ。「状況を説明したり、法的なことを解説したり、見ている方に話しかけるように書いているので、そこでふっと気を抜いてもらいたいです」と吉田は寅子に、そして視聴者に寄り添う語りの存在について語っている。 大胆なカット割、初登場人物の紹介カード、若干トーンを抑えた暗めの映像、米津玄師の主題歌をバックにしたタイトルバック(映像もカッコいい)と、全体的な印象としてはスタイリッシュでリズミカル。それは言い換えれば、ステレオタイプの朝ドラではないかもしれないが、そこを超越していく面白さとメッセージ性が『虎に翼』にはある。 一方で、朝ドラ要素を強く担っている部分もある。それが寅子の口癖の「はて?」。いわゆる『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ」にあたるセリフだ。 近年の朝ドラでは、『ちむどんどん』の「まさかやー」、『半分、青い。』の「ふぎょぎょ」などがあるが、それらにも勝る回数で「はて?」が登場する。この「はて?」は、寅子が疑問を抱いて何か物申したい時に発するセリフで、演じる伊藤自身にもリンクする思いだという。さらにもう一つ劇中でよく出てくるフレーズが「スンッ」。言いたいことがあっても空気を読んで何も言わない態度を表している。 つまりは「じぇじぇじぇ」的な朝ドラ要素を担いながらも、その裏には自分に正直に、何事にもまっすぐ向き合う寅子の人物像とそのカウンターにある世間の態度を象徴した言葉にもなっているのだ。 ほかにも猪爪家の食卓シーンは朝ドラの画を印象付けながら、今作の真ん中にいるのは寅子を演じる伊藤である。気が強く自信家でありながら弱さや葛藤を抱え、それでいてチャーミング。吉田は、伊藤の書き下ろしエッセイ『【さり】ではなく【さいり】です。』から得た飾り気がなく、何事も楽しむ力がある伊藤のイメージを寅子の人物像に反映させており、それは万人が思い描くあの伊藤沙莉の演技を思いっきり楽しめるということでもある。 朝ドラとしては革新的な『虎に翼』は、半年後に振り返った時に「朝ドラらしさ」のような固定観念を覆す、そんな上質なエンターテインメントを届けてくれる予感がしている。
渡辺彰浩