看護師も代表も依存症経験者! 異例の精神科クリニック 「回復への一歩は『分かるよ』の共感」
薬物やアルコールの依存症経験者が立ち上げ、運営する医療機関「絆愛(はんな)こころクリニック」(精神科・診療科)が沖縄県北谷町吉原にある。代表に加えて、看護師やカウンセラー、精神保健福祉士、事務員らが依存症をはじめとする精神疾患を経験した当事者で、医師は運営サポートに徹する。日本の精神医療に新風を吹き込む、全国でも異例のクリニックだ。(文=篠原知恵、写真=金城健太) 【写真】17歳で飛び込んだ夜の世界、覚醒剤に手を出して… 回復を誓う看護師 運営する法人の代表を務めるのは、薬物・アルコール依存回復者の杜宙樹(本名・森廣樹)さん(61)。10代で薬物に手を出し、覚醒剤やアルコールにのめり込んだ30代で「人生のどん底」を見た。 やめたい意志があっても簡単にやめられないのが依存症という病気だ。根性の問題ではない。だが、それが時に医療者にさえ理解してもらえないと感じ、治療を受けると決めてからの偏見にも苦しんだ。 依存を断つ中、回復を支援する民間施設「ダルク」に関わり、沖縄ダルクの3代目代表にもなった。経験を生かし、ピアカウンセラーとして依存症に悩む人を支える側へ。「回復への一歩に必要なのは『ダメ』『やめて』ではなく、同じ痛みを知る人からの『分かるよ』『自分もそうだった』という共感。本人や家族が安心して治療やケアを受けられる場をつくりたい」と思ったという。
患者と医療者が「横の関係で」
共にダルクで回復を目指した看護師経験者らに呼びかけ、約2年の準備期間を経て、昨年1月に教会建物の1階部分を借りてクリニックを開業。依存症の当事者たちが主導して運営する医療機関は国内にほぼ例がない。 一方、欧米では米ヘーゼルデン財団(ミネソタ州)などで前例があり、その理念に共感する医師たちの協力も背中を押した。 その一人、クリニックで働く精神科医の稲田隆司さんは「依存症治療を専門にして約40年になるが、当事者自らが立ち上げて運営する精神科は国内で聞いたことがない。医療者が患者にアドバイスする縦の関係ではなく、痛みを共有し合う横の関係で結ばれ、人間として対等に病に立ち向かっている。日本の精神医療の転換点になりうる」と期待する。