映画好きなら見逃せない! 今見てほしいこの3本!! ―世界で評価される 映画人の代表作、 デビュー作を堪能する
今年12月生誕120年を迎え、先ごろ開催された東京国際映画祭をはじめ、世界の映画祭で特集上映が組まれている、日本映画を代表する巨匠・小津安二郎監督。その彼が脚本家・野田高梧との初共同脚本で、戦後小津映画の〝女神〞となった原節子を初めてヒロインに起用した監督第42作が「晩春」(49)である。婚期を逃しかけている娘が気になる大学教授の父親と、母親を失って父を独りにしておけないと思い続ける娘。父娘の触れ合いを描き、小津監督による戦後の家族映画の基本ラインを築いた名篇だ。 作品が作られた49年、日本はまだ第二次世界大戦後の混乱期で、同年に黒澤明監督は三船敏郎扮する新米刑事が闇市をうろつく「野良犬」(49)を作っていた。あでやかな着物姿の女性たちが集う茶会に始まり、後半では主人公の父親が友人に京都の茶懐石の老舗『瓢亭』で飯でも食おうという「晩春」は、そんな時代のリアルさとは対極にある映画。だが逆に小津監督は時代と隔絶することで、静謐で穏やかな生活空間の中に、人間そのものだけを写し取ってみせた。娘を結婚させるために、自分も再婚するつもりだと嘘をつく笠智衆ふんする父。父が再婚相手に挙げた女性(三宅邦子)を見かけ、激しく嫉妬の念に駆られる娘の原節子。父娘の絡み合う想いが、シンプルなセリフと計算しつくされた映像表現の中に描出されている。なお、「晩春」は4Kデジタル修復版での放送となる。
その小津監督の「東京暮色」(57)に、助監督として就いたことがあるのが篠田正浩監督。彼の代表作の一つ「瀬戸内少年野球団」(84)も登場する。これは第二次世界大戦終戦直後の淡路島を舞台に、戦時中とはすべての価値観が逆転した当時の日本を、島に住む少年たちの目から描いた、阿久悠の小説の映画化。この島に、やがて戦犯として軍事裁判で裁かれる可能性のある元提督(伊丹十三)と娘の武女がやってくる。武女に一目惚れした小学5年の優等生・竜太とガキ大将のバラケツは、進駐軍から元提督と武女を守ろうと決意する。一方で竜太たちの担任・駒子先生は、夫が戦地から帰ってこないために実家で肩身が狭く、そのすきを狙う夫の弟・鉄夫から激しく言い寄られて苦悩している。このアメリカ、そして古い日本の村社会による抑圧から逃れるため、竜太や駒子先生は野球を始めることにする。ラストに彼らの野球チームはアメリカ軍チームと試合をするが、移ろいゆく時代に対する登場人物の思いを、この試合に凝縮させた田村孟の脚本が見事。またこれは駒子先生を演じた伝説の女優・夏目雅子の遺作で、後に〝世界のケン・ワタナベ〞になる渡辺謙が駒子を愛する義弟・鉄夫を演じた、彼の映画デビュー作でもある。