“解雇規制緩和”の提唱に横たわる「違和感」の正体…崩してはならない日本企業の強みとは
解雇規制見直しで日本企業が失う大きすぎる“財産”
21年前は派遣解禁にとどめたことで、正社員の聖域は守られた。だが、解雇規制の見直しは、ついにそこにメスを入れることになる。そうなったとき、どんなことが起こるのか…。 「正規社員と非正規社員の差が事実上なくなるわけですから、職場はギスギスするでしょう。企業は転勤や異動をこれまでのように上から目線ではいえなくなりますし、一方の社員も、必要以上に会社側の顔色をうかがうようになり委縮するでしょう。なにより、日本企業の最大のよさだった、一丸で社員教育を行うという文化が廃れていきます。これが解雇を自由化した場合の一番の損失だと私は感じています」 日本企業は新卒を一斉に採用し、新人研修等で同時に教育。現場に配属後は、先輩社員が指導し、一人前の社員へと育成する文化が根付いていた。「これが日本企業の強みであり、一時期、世界の頂点に立った強さの根源」と新井氏は力説する。この日本企業の強みが、もし小泉親子2代の”規制緩和”が実現することになれば、あえなく崩壊の危機に陥るという。
いま必要なのは「安心して働き続けられる」というメッセージ
「日本経済の将来を考えると、確かに人材流動化は必要です。そのためには解雇に対する規制にもう少し柔軟性があってもいいのかもしれません。ただ、先行き不透明な状況下のいまは、なにより雇用を安定させることが重要です。非正規の方をリスキリングで正社員へ転用させることもいいかもしれません。とにかく、『労働者が安心して働き続けられる』というメッセージこそがいま求められています」 思い切ってやらなければ前へは進めない――。だからこそ、批判もある程度覚悟したうえで、聖域の解雇問題についてあえて大胆な提言をしたのだろう。だが、その内容が国民の多数意見から乖離(かいり)していては、社会の不安感を増幅させ、ひんしゅくを買うだけだ。 果たして、もろくなりつつある労働市場にとどめを刺しかねない”激震”が走ることになるのか…。命運を握るイス取りゲームまであと2日(27日投開票)だ。
新井健一(あらい・けんいち) 経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー人事部、アーサーアンダーセン(現KPMG)、ビジネススクールの責任者・専任講師を経て独立。人事分野において、経営戦略から経営管理、人事制度から社員の能力開発/行動変容に至るまでを一貫してデザインすることのできる専門家。著書に『働かない技術』『いらない課長、すごい課長』(日経BP 日本経済新聞出版)『事業部長になるための「経営の基礎」』(生産性出版)など。
弁護士JP編集部