『ブラックペアン2』“渡海征司郎”の影がさらに色濃く “日曜劇場らしさ”が詰まった逆転劇
維新大の主催で行われた、最先端の医療AI“エルカノ”を用いた花房(葵わかな)の母・戸島和子(花總まり)の公開オペ。しかしエルカノに依存しすぎる執刀医・野田(池田鉄洋)の怠慢によって戸島の命に危険が生じ、世良(竹内涼真)が事態収束に向けて立ち上がってもうまくいかない。そんななか、花房から頼まれた天城(二宮和也)は、彼女に“シャンス・サンプル”を持ちかける。その賭けの結果はさておき、このように誰かのミスを補うようにして急遽オペを執刀し、見事に救ってしまうという天城の姿は、まさしく“オペ室の悪魔”渡海征司郎と一致するものがある。 【写真】白衣姿で再び登場のチェ・ジウ 8月4日に放送されたTBS日曜劇場『ブラックペアン シーズン2』の第5話は、前回のエピソードから連なる公開オペの顛末が冒頭の数分でさらりとまとめられていく。エルカノの開発者である野田の目の前で、エルカノとコミュニケーションを取りながらその指示を的確に応用し、そこに自身の医師としての腕前も加えながら、エルカノに新たな術式をインプットさせる機会を与える。つまりただ闇雲に従うのではなく、人間の叡智との共存を図る。人間の補助的役割を担うべき装置の意義をとことん高める天城のこのやり方は、理想的なAIの使用法といえよう。 そうした公開オペのなかで提示されたのが“医者のプライド”というキーワード。これがその後、別の患者の物語へとシフトしていくなかでも生かされるのだから、前回から持ち越しをした意図はここにあるのだろう。そもそも患者に対して賭けを要求し、莫大な手術費用を要求する天城がそれを持ち合わせているのかと周囲の医師たちが訝しむというのは、ある意味でこのドラマの肝のようなところかもしれない。それこそシーズン1の渡海が医療過誤を憎んでいたのと同じように、天城の場合は、自身が患者の命を救うということに対して完璧であること。それが彼の“医者のプライド”というものであるわけだ。 この中盤以降のストーリー運びでは、新病院建設のための追加費用を出資してもらうために、韓国で事業に成功した木崎(恵俊彰)という患者の手術を行なうことになる。しかしこの木崎は、維新大の菅井(段田安則)と繋がっており、天城を失墜させることを画策。さらに第1話に登場したミンジェ(キム・ムジュン)の母・ソヒョン(チェ・ジウ)とも因縁がある。この患者が“シャンス・サンプル”でケチなイカサマをしていたことを見抜き、さらに彼が事業で行なっていた悪事を徹底的に暴くための一連ーー騙し合いのような駆け引きと大逆転の展開は、“ブラックペアンらしさ”というよりも“日曜劇場らしさ”の方が勝っている。 おそらくはソヒョンの再登場によって第1話の延長線上にある物語を収めたように、ここがこのドラマの折り返し地点となるのだろう。そのタイミングで、看護師長の藤原(神野三鈴)は思わず天城のことを「渡海……」と呼びそうになるし、佐伯(内野聖陽)はデスクに飾っていた“ブラックペアン”を手に取る。そして取り乱した木崎に対して天城が放つ「思いつく限りの死に方、全部試したらいい。全部救ってやるよ」のセリフは、シーズン1のキャッチコピーにもなっていた渡海の「片っ端から救ってやるよ」に通じるものがある。不在でありながらも、確実にこのドラマのなかの“渡海征司郎”の影が濃くなってきているようだ。
久保田和馬