極右はもはや「悪魔」ではない…フランス総選挙の左派逆転勝利に深刻な代償、極右バブルが止まらない根本原因とは
極右政権の誕生が危惧されたフランス総選挙で、左派連合が逆転勝利した。 ただし、これをもって欧州の「極右バブルが弾けた」と考えるのは早計だ。 ドイツやオランダ、英国など欧州全体で右傾化は急速に進んでおり、「極右」はもはや異端的な存在ではなくなった。(JBpress) (藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー) 【写真ギャラリー】「オランダのトランプ」とは?ほかヨーロッパの極右政党の党首たち フランスで7月7日に投開票された国民議会(下院、定数577)選挙の結果はまさにサプライズだった。マクロン大統領が率いる与党連合が政策面で大きく異なる左派連合と共闘したことで、破竹の勢いだった極右政党・国民連合(RN)は第3勢力にとどまった。 この選挙結果を受け、「極右バブルが弾けた」との楽観論が流れているが、RNの過半数を阻止するための代償はあまりにも大きかった。 左派、与党、RN、いずれの勢力も単独で過半数を確保できなかったことから、今後の議会運営が空転することが危惧されている。 議会の混迷が続けば続くほど、今回の選挙で過半数の議席を確保できなかったRNへの支持がさらに高まる展開もありうるだろう。 敗北を喫したRNの指導者マリーヌ・ルペン氏は選挙後「勝利が遅れただけだ」と述べたが、この予想は今後現実となる可能性は排除できないと思う。 一方、フランスの選挙をかたずを飲んで見守っていた欧州連合(EU)の首脳からは安堵の声が聞こえてくる。
■ 極右政党が政権を担いはじめた 隣国で極右内閣が誕生しかねない状況に「気がめいる」とこぼしていたドイツのショルツ首相は7日、「ドイツとフランスの友好関係に良いニュースだ。EUの精神に基づき建設的に政府を樹立することが重要だ」とX(旧ツイッター)に投稿した。 Ich bin erleichtert über den Ausgang der Wahl in Frankreich, für den die Französinnen und Franzosen gesorgt haben. Für die deutsch-französische Freundschaft ist das eine gute Nachricht. Nun geht es darum, konstruktiv eine Regierung zu bilden - auch im Sinne einer starken EU. ― Bundeskanzler Olaf Scholz (@Bundeskanzler) July 8, 2024 だが、これで一件落着とはいかないだろう。欧州では極右勢力が着実に地歩を固めつつあるからだ。 右派政党「イタリアの同胞」を率いるイタリアのメローニ首相が6月30日に「左派に投票しない極右の有権者を『悪魔化』」する試みは薄れている」との見方を示したように、グローバル化の進展により中心が左寄りとなっていたEUの政界で揺り戻しが起こっている感がある。 極右はもはや「異端」とはみなされなくなっているようだ。6月30日の1回目の投票でRNの躍進を支えたのはフランスの「女性票」だったと言われている*1 。 *1:【解説】フランス総選挙、極右躍進を支えたのは意外にも「女性票」だった(7月2日付、クーリエ・ジャポン) すでに、極右政党は政権を担い始めている。 EU域内で5番目の経済規模を誇るオランダでは7月2日、昨年11月の下院総選挙から約7カ月を経て、反移民・反EUを主張する極右の自由党(PVV)が主導する4党連立政権が発足した。 PVVは過去に閣外協力をしたことがあるが、政権を担うのは初めてだ。4党連立政権は難民・移民政策を厳格化し、独自に国境管理を強化する方針を示しており、オランダとEUの間の関係悪化が懸念されている。 EU最大の経済大国ドイツでも極右政党が勢力を伸ばしている。