『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』S2最終回はS3の冗長な予告編に 継続に立ちはだかる高い壁
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』S2最終話にはテレビシリーズ版独自の注目すべき展開も
それでもシーズン2第8話ではいくつか注目すべき展開があり、いずれもテレビシリーズ版独自のものであったことは指摘しておきたい。谷間(ヴェイル)のアリン家に預けられたレイナ(フィービー・キャンベル)が出奔し、山中に棲息する野生のドラゴンを発見する。原作では“羊盗み”(シープスティーラー)と呼ばれる竜で、“血の収穫”の際にネティという謎の少女が騎竜している。彼女の素性については全く言及されておらず、レイナがシープスティーラーを発見したということは……原作ファンも膝を打つ面白いアレンジで、後の展開が楽しみだ。 そして最も重要な脚色はデイモンの見るヴィジョンである。アリス・リヴァーズ(ゲイル・ランキン)によってハレンホールの神木に触れたデイモンは、そこで死に絶えるドラゴンと沈みゆく自身を幻視して戦争の末路を知る。さらには遠くない未来、北方から現れるホワイトウォーカーの脅威と、新たなターガリエン(そう、我らがカリーシだ)が3匹のドラゴンを授かるさまを見るのだ。これこそ、始祖エイゴン征服王から伝わる“氷と炎の歌”であり、自身も大いなる物語の1つであることを悟ったデイモンは、ようやくエゴを捨て去るのである。アリスもさっさと引き合わせてくれればと思うところだが、もう1つ気になるのはヴィジョンの最後に現れるアリセントの娘ヘレイナ(フィア・サバン)の存在だ。シーズンを通じて予知者であることは示唆されてきたが、第8話では明確にデイモンと予言を繋げる媒介として機能している。原作では子供を殺されたことで正気を失い、物語の表舞台から退場する彼女に重要な役割が与えられていることは興味深い。 だが、いくら考えたところで全ては2年後のシーズン3である。視聴者が血湧き肉躍るドラゴン大戦を実現し、ウェスタロスならではの無慈悲で刺激に満ちた物語を用意してもらわなければ、どちらが王位を得ようがどうでも良くなってしまうだろう。私たちが生きる現実世界も同じくらい、いやそれ以上に混沌に満ち、転がるような速度で変化しているのだから。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』が再び時代を鋭く突き、私たちを征服してくれることを期待して待ちたい。
長内那由多(Nayuta Osanai)