一番大変だったあの「大作」…映画やドラマの馬術指導カリスマが語る 「苦労した女優&感心した俳優」
小栗旬に流鏑馬を教えたのはこの人! NHK大河ドラマだけでも『鎌倉殿の13人』など20本以上に参加 阿部寛や堺雅人らもここで特訓していた――
「撮影前に必ず監督と演出担当を馬に乗せるようにしています。あの人たちって、数十㎏の甲冑(かっちゅう)を着た、どう見てもヒョロヒョロの俳優さんに『ヒラリと馬に飛び乗って』とか平気で言うから!(笑)」 超貴重! 二階堂ふみとの『VIVANT』モンゴルロケ オフショット そう語るのは山梨県八ヶ岳山麓の乗馬クラブ『ラングラー・ランチ』で代表を務める田中光法(みつのり)氏(56)だ。田中氏はこれまで映画や20本以上のNHK大河ドラマで馬術指導者として関わってきた。 最近では大ヒットドラマ『VIVANT』(TBS系)の撮影に参加し、モンゴルで堺雅人(50)や阿部寛(59)らと共演する役馬(やくうま)(演技ができる馬)の調教を行った。 「物音や騎乗者の動きに動じず、俳優が何もしなくても指定したルートや速度を守って、指定した場所でピッタリ停止できるのが役馬です。本来その素質があるのは何百頭に1頭ですが、『VIVANT』では、暴れて人を嚙(か)むようなモンゴルの野生の馬を1ヵ月で役馬にしなきゃいけなかった。睡眠時間も切り詰めて、今までで一番大変でした。 モンゴルは放牧文化の国で、野生の馬しかいない。大草原に放っておかれても狼から自衛できる馬しか生き残れないんですよ。毎日撫(な)でて、一緒に歩いて、信頼関係を作りました。少しずつ動きを教えて、馬が嫌がったら振り出しに戻して……。詰め込んで調教すると馬がノイローゼになってしまう。嵐や暴風で調教ができない日もあり、時間の割り振りと組み立てが大変で、正直かなりギリギリで間に合いました」 人や羊やヤギが入り交じって爆走するなど難しいシーンばかりのなか、とくに苦労したのが二階堂ふみ(29)が馬に手渡しでニンジンを食べさせるシーンだった。
「どうしても警戒心が残っていて人の手から食べない。調教した8頭のうち、最後の最後で1頭だけニンジンを食べたので、その子は二階堂さんの馬に決まりました。 阿部さんには一番背の高い子、堺さんには一番頑固でリーダー気質の子に乗ってもらいました。堺さんはモンゴルでもずっと練習していて、『馬の乗り方をラクダに乗るシーンにも応用できました!』と笑っていましたね(笑)」 田中氏の『VIVANT』参加は、堺と阿部の直々の指名によるものだった。とくに堺とは’16年に放送されたNHK大河『真田丸』以来の付き合いだという。 「普通、番組サイドからレッスン料を支払ってもらって、半年前頃から訪れる主演の俳優が多い。でも、堺さんは自費で1年前から週3回、車で片道3時間かけてうちのクラブに練習しに来ていました。聞くと、堺さんは以前撮影中に落馬を経験したことがあり、その現場ではすべてのキャストが落馬していたそうです。 そのせいもあってか、かなり乗りこなせるまで練習していましたね『VIVANT』で堺さんが乗った馬は役馬としては完成しきっておらず、騎乗者が重心移動をして馬に意思を伝えなければ言うことを聞かない子だったのですが、堺さんは上手く乗りこなしていました」 ハリウッド映画『ラスト サムライ』など海外作品にも参加してきた田中氏は、俳優本人が乗馬することを重視するのは日本独時の文化だと語る。そういったリクエストに応えるため、田中氏のクラブには多くのスターが通ってきた。 「故・宇津井健さんに西田敏行さんに藤岡弘さん、綾瀬はるかさんや仲間由紀恵さんに滝沢秀明くん……とくに小栗旬くん(40)とは映画『TAJOMARU』から10年以上の付き合いになりますが、彼は撮影が始まる前から必ず乗馬クラブに練習しに来ます。 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の撮影前には『両手を離して弓を引きたい』と言い出した。流鏑馬(やぶさめ)を習得するには基礎からやり直すことになるし、習得してもその凄さがわかるのは一部の人だけ。そう説明しても『はい、頑張ります』とだけ言ってやり遂げました」 国内唯一のプロフェッショナルが名作のクオリティと演者の安全を守っている。 『FRIDAY』2023年11月24日号より
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