2024年注目の科学トピックは?
(3)次世代エネルギー、核融合発電なるか?
(畑中)「核」という言葉が出てくると、何となくおっかなびっくりという感じですが……。 (茜さん)核とつくと、原発とか、核分裂、原爆などをイメージして、また暴走してしまったら事故で人がひどい目に合うのではないかと心配される方もいらっしゃるんですけれど、核融合というのは安全性には定評があります。いわゆる普通の原発は、核分裂を使っていて、放っておいてもどんどん核分裂が進みそうになるのを、制御棒を使って、いわばブレーキを使いながら制御しているという感じです。それに対して、核融合発電というのは、重水素と三重水素という2種類の水素を使ってヘリウムにするという、実際に太陽の内部でできているような反応で、放っておけばすぐに止まってしまうような反応なんですね。なので、人工的に高い温度などをつくらないと進まないので、暴走するような心配はないということになります。2つ目には、核融合発電に使う材料、重水素と三重水素は原料がリチウムになるんですが、リチウムは海水中に豊富にあります。日本は石油ですとか、ウランですとか、輸入に頼っていましたが、輸入に頼らなくてもいいという利点があります。3つ目は、この核融合発電ではヘリウムと中性子だけが発生しますので、温室効果ガスは発生しません。ですからクリーンエネルギーと言えます。 (畑中)私、経済関係も取材しているんですが、経団連の十倉雅和会長がことあるごとに、この核融合発電の重要性を説いています。将来性はどうですか? (茜さん)核融合発電の象徴的なものが、フランスに建設中の核融合実験炉の「ITER(イーター)」というものです。これは本当に世界の先進国全部が協力しているようなもので、日本、アメリカ、EU、ロシア、中国、韓国、インドが協力して、2.5兆円かけてつくっています。ただし、こちらが成功しても、世界中で核融合発電が人々の生活に役立つようになるには、さらにそこから数十年かかるということで、道のりは決して短くないんですね。 (畑中)われわれが生きている間にはちょっと……。 (茜さん)いま、がんばって2050年までとか、2035年までには小型の核融合炉をつくって発動させたいとか、いろいろな話があるんですが、ちょっと道のりは正直言って長いです。ただし、このプロセスというのが、とても財産になるんですね。例えば、核融合炉の発展のためにつくっていた超電導コイルの開発ですとか、プラズマの発電に耐えうるような材質の開発というのは、他のものにも応用できる技術ですし、将来的に科学技術の担い手となるような人たちにもつながっていきますので、とても意義のある試みだと思います。日本というのは、ちょっとITの世界で、世界から乗り遅れてしまった感があるので、今度こそはやっぱり、核融合の世界では乗り遅れるどころではなく、リードするような働きが世界に示せたらということで、政府もがんばっているのではないかなと思います。 (畑中)日本は希望を持てそうですか? (茜さん)実はいま、日本の核融合炉に関する技術というのは、すでに日本のベンチャー企業が欧米に技術提供をしていたりします。以前は日本というのは、数年後ぐらいに回収できるような技術にしか企業家もお金を出さないなどと言われていましたが、いま核融合炉のスタートアップ企業には、100億というような多額の金額が、資本として投入されていたりします。 (畑中)となると、今後やっぱり、もっとお金を出すというような機運が盛り上がらないと……。 (茜さん)そうですね。特に日本政府がそこにお金を出すとなると国民の目も厳しいですから、ぜひともこれは日本だけでなく世界にとっても、エネルギー問題を開発するような技術ですし、そこで日本も勝ち残っていかなければならないということを、ぜひ皆さんに知ってもらって、じゃあ、そこに政府はお金を使ってもいいのではないかみたいな機運が高まればいいなと思います。 ―– 「月面着陸」「両親がオスの出産技術」「核融合発電」、今回はこの3点をお伝えしました。科学分野のニュースは私たちの生活を便利で豊かにしてくれます。一方、科学は未知との戦いと言いますか、知らないことをどう理解していくか、その戦いとも思います。知識欲をもって立ち向かうことで、便利で豊かな社会、未知との戦いの橋渡しの役目を担えればと思っています。(了)