週末は読書!作家・林真理子さんの推しの3冊。宮尾登美子さんの本は「鯖のような」旨み成分たっぷり
品性のある簡潔な文体とはこうと知った。
そして作家としての人生を歩み始めたとき、大きなヒントを与えてくれるひとつの出合いがありました。 「実は私、長年ハルキストではなかったんです。大ブームの村上春樹さんでしたが、初期の作品に出てくる独特な世界観や羊男といった登場人物が理解できず、私には合わない本だと思い込んでいました。でも『ノルウェイの森』はとても素直に、そして夢中になって読めました。 そして改めて文章の美しさに気づいたんです。村上さんは英語の翻訳をされるせいか、非常に簡潔な文章を書かれる方。親しみがあるのに読者に阿ることなく、気品を保つ。しかも登場人物が知的でクール。性的には奔放なのに、そこに固執もしない。そんな魅力にぐいぐい引き込まれました」 先日、作家になりたくて小説を応募していた頃の作品を読み返したところ「明らかに村上さんの文体を意識していましたね」と笑う林さん。「村上さんの小説にはアメリカナイズという単純な言葉では表せない、アメリカの血を感じます。強いて言えば小説自体がクォーターの女性という感じかしら」
女心を緻密に分析して書く手法に脱帽。
林さんの作品といえば、女性の隠したい部分もリアルに描く恋愛小説が魅力。 「恋愛小説で大切なのは心理描写なんです。出会って、相手をこう思い、気持ちが変化してと、恋愛で変わっていく女心を綿密に描くのですが、細かく描写しすぎても、読み手にうるさがられてしまう。ある程度余白をつくり、想像を掻き立てる部分を残す匙加減がむずかしいんです」 そんな林さんが50代で読み、心底驚いた恋愛小説がフランスの女性作家アニー・エルノーの『シンプルな情熱』。 「彼女の自伝的小説でもあるのですが、それこそ心の内側を顕微鏡で見て、感情をピンセットで摘んでシャーレに置く。そのような書き方をしているんです」林さんはアニーさんと対談する機会があり「ご本人はリセなどで教鞭を執っていた、ごく普通の知的な女性でした」 そんなエルノー作品と出会い、林さんも恋愛小説へのスタンスが変わったと。「恋愛って、自分で自分を追い込み、おバカさんになっていくところがありますよね。ふつうの人は恥ずかしいと目をつぶる部分を、エルノーさんはしっかり目を見開いて書いている。そこがすごいなと思います。とにかく一冊まるごと恋が始まって終わるまでを書いているんだけど、それでぐいぐい惹きつけて読ませてしまう文章力が、またすごいところ」 そんな読書好きの林さんですが、平日は大学での理事長職に追われ、なかなか読書の時間を確保できないのだとか。 「年齢を重ねると老眼、集中力の低下などで読書から遠ざかりがち。でも読書はクセだと思うんです。読書に適した光の下に本を読む場所をつくり、きちんとした姿勢で読む。ソファに寝転がって本を読むのは幸せな時間でしたが、今、それをやると1ページも進まないことも......。最近はちょっと早めに身支度を整え、出勤前のひとときを読書の時間に充てています。朝、本を読んでから出かけると、気持ちがいいですよ」