「人前で褒めないで」若手の6割が回答◆"良かれ"と思った上司、"圧"と感じた若手#令和の子#令和に働く
◇「34歳以下」の世代に変化
良かれと思って人前で褒めるベテラン世代と、過度な期待に負担を感じる若者。こうしたすれ違いはなぜ起こるのか、「褒められ方」を巡る研究の著書もある金沢大学の金間大介教授(イノベーション論)に話を聞いた。 金間教授が若者心理の変化に気がついたのは、別の大学に勤務していた12年ほど前のこと。講義中に優れた質問をした学生がいたため、他の学生の前で褒め、「もし興味があるなら」と研究室に招いた。ところが後日、この学生が「教授に目を付けられた」と友人に話していたことを知ったという。 「期待されたり目を掛けられたりすることを『圧』と呼んで、嫌がる若者がいる」と気付いた金間教授。その後、さまざまなアンケート調査などを分析し、現在34歳以下の世代に「人前で褒められたくない」傾向が見られることが分かったという。 ◇「失望されたくない」若者たち この世代が人前で褒められるのを嫌うのは、「他人から失望されたくないから」と金間教授は考察する。「周囲から否定的な評価を受けることに強い恐怖心を感じているようだ。他人から失望されるのを防ぐため、期待を寄せられないようにしている」と指摘し、失望を嫌う主な要因として、「SNS」と「親」の二つの影響があるとみる。 投稿内容によって「いいね」と称賛されたり、逆に炎上したりするSNSは、「他人の気持ちが可視化されるツール」と言える。「今の若者は10代の頃からSNSを閲覧してきたことで、他人から自分の行動がどう思われるのかを学習している。そのため非常に安定志向で、どんな行動をするにも常に他人の目を意識している」と分析する。 親からの影響も大きいという。「現在20歳の大学生の親は、30歳近くで子どもを産んだと仮定すると50代前半が多く、団塊ジュニア世代だ。彼らは経済的な成長が望めない30年間を社会人として過ごしているので、安定志向にならざるを得なかった。『失敗しては駄目だ』と言われて育った子供世代も、失敗を強く恐れるようになった」と話す。 ベテラン世代が「人前で褒められたい」と考えている理由については、「彼らが若い頃にはSNSがなく、周囲に評価される機会は少なかった。誰かに認められることに飢えていたので、人前かどうかを問わず褒められたい人が多いのだろう」と分析。現在出世している人たちは「仕事に対する意識や意欲が高いタイプ」であり、「そもそも人前で褒められて嬉しいと思う人が上司になっているのではないか」とも話した。 ◇「若手社員の性格見極めて」 ジェネレーションギャップを埋めるためにはどうしたらいいのか。管理職向けの企業研修で「褒められたくない若者」への対処法を伝えているという、マネジメント講師の伊藤誠一郎さんにアドバイスを求めた。 ―ジェネレーションギャップを埋める必要性は。 管理職向けの企業研修では、人前で褒められたくない若者に配慮するよう伝えています。部下が嫌がることや気乗りしないことをしてしまうと、心の距離は縮まらない。中長期的に考えれば、部下が相談や不安を打ち明けづらくなり、結果として早期離職の一因になる可能性もあります。 ―ベテラン世代は若手の部下にどう接したらいいでしょうか。 若手社員の中には人前で褒められることがモチベーションになる人もいるので、それぞれの性格に合わせた対応が必要です。難しい仕事に直面したときほど前向きに取り組む性格なら、人前で褒められて喜ぶ傾向があると考えられますが、そうではない性格なら、大半が人前で褒められたくないと考えているようです。 ―若手社員へのアドバイスは。 職場で良好な関係を築くには、若手社員からの歩み寄りも欠かせません。社会で活躍するには、周囲とコミュニケーションをすることが避けられません。「目立ちたくない」と言わず、自分の気持ちを周囲に話して、社会性を身に付ける努力をしてほしいですね。 この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。