セカンドキャリアは「みんなの家庭科室」 愛媛の元ベテラン教諭が目指す大人の居場所とは
健康寿命が延びています。定年以降も気力、体力が持続し元気な時間がたっぷりある―。そんなシニア世代にとっては、退職後のセカンドキャリアをどう描くか悩ましいところ。例えば、実現したい夢があるのなら思い切って起業にチャレンジする道も選択肢のひとつです。 県内の公立校で37年間、国語教諭を務めた女性が退職後、新規ビジネスに挑戦しています。「みんなの家庭科室」と名付けた週末カフェを中心に、ハンドメイド教室、レンタルルームなど、元教師の経験や人脈を生かし、大人の居場所、交流の場づくりに情熱を傾けています。 ■こだわりはヘルシー、おかあさんの味 松山市朝生田町に9月にオープンした「みんなの家庭科室」です。笑顔で出迎えてくれたのは松本直美さん(60)。3月まで教壇に立っていました。 この日は翌日のカフェ営業に備え、試作を兼ねたまかない作りの真っ最中。知人の元家庭科教諭とともに、調理に励んでいます。 提供するランチはいつも野菜たっぷりのヘルシーメニュー。元家庭科教諭が主に献立・調理を担当。松本さんは、材料の調達や運営全般を担っています。 「しゃれたことはできない。昔、おかあさんが作ってくれたような献立が中心です。肉は主に豚肉と鶏肉、中華風にしたり洋風にしたり。野菜の量だけは負けませんよ」 自慢の新鮮な野菜は、県内の生産者から直接分けてもらうことが多いそうです。カボチャ、ピーマン、キュウリ、豆苗、モヤシ、タマネギ、ニンジン、ナス―。旬を取り入れ、栄養やいろどりにも気を配っています。 料理提供を核に、必要に応じてソーイングやハンドメイド教室も実施。スカートのすそ補正や服のゴム入れ替えなど、困っていること、やりたいことを中心に依頼が増え、元家庭科教諭がサポートしています。 「仲間で集まって『ぬくずし』作ろうか、といった調理実習の場にもなる。家でゴロゴロしている夫やおひとりさまの男性などと作ってもいいし、とにかく新たなつながりができる集いの場にしたい」。松本さんのアイデアは、専門の国語ではなく生活に直結する家庭科の分野で広がっています。「特に料理は段取りがすべて。認知症予防にはもってこいよ」と明るく笑います。 ■「おいしい」を励みに 教員仲間や教え子、知り合いなどからスタートした来店客は徐々に増え、常連客もできました。 「おいしい、と言ってもらえるとこんなにうれしいんだと実感しています。特にお客さんのシニア世代は、子どもが独立して家族が減ってくると、家で手をかけて作るということが少なくなるからね」 松本さんは事業の目的を「家庭科を通じて個々のライフステージに合わせたQOL(生活の質)を高めること」としており、お客さんの反応から手応えを感じています。 ■次世代育成も視野に 情報発信は今のところインスタグラムだけですが、今後は、コンテストの賞金を利用して店舗のホームページを作成する予定。 「若いwebデサイナーの経験になればと考え、専門学校生に依頼しています」と、次の世代の育成を重視する教育者のまなざしは健在です。 オープンからまだ2カ月ですが、すでに次を見据えています。 「今の拠点をもう少し広げて、次は『みんなの図工室』を作りたい。何かを作ったり、食べたりしながら出会いと交流が広がることを考えると楽しい」 松本さんは、第二の人生をパワフルに切り開いています。
愛媛新聞社