遠藤航・リヴァプールMF「どれだけ袋叩きにされようと、僕の想いは変わらない」
プレミアリーグで、ここまで劇的に評価と信頼を高めた選手も珍しい。昨夏、リヴァプールに加入した日本代表のMF遠藤航(わたる)(30)のことである。 【画像】森保ジャパンを牽引する司令塔…!遠藤航の炸裂プレー姿 遠藤の移籍が発表されたのは昨年8月18日。プレミアリーグの新シーズンはすでに始まっており、プレシーズンマッチを消化することなくチームに合流した。 だが、瞬時に適応できるほど世界最高峰のリーグは甘くない。ましてや、遠藤が移籍したのは強豪リヴァプールである。シーズン序盤は出番が限られ、出場してもインパクトを残せない試合が続く。 地元メディアは新戦力の日本人選手に厳しい視線を向けた。「エンドウはボールを失うシーンがあまりに多い」(地元紙『リヴァプール・エコー』)、「このプレーでは、プレミアリーグのビッグマッチで先発を任せられない」(クラブ情報サイト『ディス・イズ・アンフィールド』)と、辛辣な意見を並べたのである。少しでも物足りないプレーを見せると執拗に批判されるのがビッグクラブの宿命だが、遠藤も例外ではなかった。 だが、ドイツのVfBシュツットガルトで主将を務めた、精神的に成熟している遠藤は、自分の足元だけを見つめていた。どれだけ袋叩きにされようと、自分の想いは変わらない――。 「スタメンで出ようが、ベンチから出ようが、とにかくチームが勝つためにやる。それこそが不可欠なもの。そういう想いでプレーしていた」 同時に、自分のプレーを常に見つめ直し、課題に向き合っていたという。 「何が課題で、どうしたらもっとよくなるのか。毎試合、毎試合、常に考えながらやっていた」 そんな遠藤に、一大転機が訪れた。12月3日に行われたフラム戦。途中交代で出場すると、後半42分にミドルシュートで貴重な同点ゴール。自身のプレミア初ゴールで本拠地アンフィールドのサポーターを沸かせ、チームの逆転勝利に貢献したのだ。さらに、次節のシェフィールドU戦でアルゼンチン代表MFアレクシス・マクアリステル(25)が負傷するアクシデントに見舞われ、守備的MFを本職とするプレーヤーは、チーム内で遠藤のみという緊急事態になった。スタメンに抜擢されたサムライ戦士は「自分がやるしかない」と決意を固めた。 気持ちを高めてピッチに入ると、ここから遠藤は快進撃を見せた。試合を重ねるごとにパフォーマンスが向上し、持ち味のアグレッシブな守備で中盤を支えた。気がつけば、アジア杯で離脱するまで、公式戦8試合連続で先発出場。リヴァプールはプレミアリーグの首位に浮上し、日本代表MFは12月のクラブ最優秀選手に選ばれた。本人は手応えを口にする。 「ずっと試合に出させてもらって、慣れてきたところはある。ようやく自分の良さをこのプレミアリーグでもしっかり出せるようになってきた。チームとしても、個人としても、ベストパフォーマンスをドンドン更新している感覚でやっている。入団から時間が経ち、周りのチームメートも自分の良さを分かってくれるようになった。 僕は30歳。経験値の高い選手を獲得するメリットを、クラブも感じてくれていると思う。自分の出来次第で、チームの結果が大きく変わるぐらいの気持ちでやってきた。それが今はやれていると思う。もちろん満足はしていない。さらにプラスアルファをもたらす選手になりたい」 1月1日に行われたニューカッスル戦を最後に遠藤はチームを離れ、アジア杯が行われるカタールに向かった。ユルゲン・クロップ監督(56)やチームメートからは「本当に行ってしまうのか?」と声をかけられたという。遠藤は「僕を獲得したメリットを証明できたのは素晴らしいこと」と笑みを浮かべた。 アジア杯グループリーグでは3戦にフル出場。ゴールも決めるなど、日本代表の決勝トーナメント進出に貢献した。 だが、遠藤に油断は微塵(みじん)もない。 「アジアで勝つのは簡単ではない。とにかくやれることをやるだけ。そういうメンタリティを持って挑むだけです。自分がリヴァプールで8試合連続先発しているのは、日本代表の選手も知っていると思う。みんなにいい刺激を与えつつ、僕も刺激を受けながら、優勝に向かってやっていきたい」 プレミアで見た天国と地獄が、日本の司令塔を一段上のレベルに引き上げた。森保ジャパンが悲願のW杯ベスト8を成し遂げるとき、その中心に必ず遠藤の姿があるはずだ。 『FRIDAY』2024年2月16日号より 取材・文:田嶋コウスケ
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