週刊・新聞レビュー(11.04)「朝日の記事だけを『捏造』とする 理解しがたい首相発言」 徳山喜雄
首相が「撃ち方やめ」報道に強く反応
東京新聞をのぞく在京各紙が、「枝野氏の話が出て、(民主党が)『撃ち方やめ』となればいい」(読売)という「首相発言」をいっせいに報じたのは、10月30日朝刊だった。 側近議員との昼食会で話したようだ。国会という表舞台での発言以外に、密室でのこうした話が漏れてくるのがおもしろい。首相をはじめとする官邸や与党の気持ちを代弁する、味わいのあるひと言である。 ところが、これに対して安部首相が30日の衆院予算委での枝野氏とのやりとりのなかで、とつぜんと朝日の記事を「捏造」とし、さらに「朝日新聞は安倍政権を倒すことを社是としていると、かつて主筆がしゃべったということです」とたたみかけた。 しかしながら、毎日、読売、産経、日経新聞も同様の記事を書いているのである。 朝日は10月31日朝刊の2社面でことの経緯を説明する記事を掲載。記事は取材にもとづいており、捏造ではない、朝日に『安倍政権を倒す』という社是はない、主筆が話したこともない――と明確に否定した。 くだんの記事は、首相との昼食会に出席した議員が話した内容を書いたものだったが、この議員が30日夕、「私が『これで、撃ち方やめですよね』と言ったら、総理たちも理解を示した」と、これまでの説明を修正した。 これによって問題は終息に向かうと思われたが、安倍首相は31日の地方創生特別委で再び問題を蒸しかえすかのように、朝日の30日朝刊の「野党の追及が弱まることを期待した発言だが、かえって反発を買う可能性もある」と書いた記事に反応、「火のないところに火をおこして風をあおっている」と気色ばんだ。朝日、産経などが11月1日朝刊で伝えた。朝日の記事がいちいち気に障って仕方ないようだ。 首相の枝野氏に向けた「殺人や強盗を行った革マル派」発言や、朝日への「捏造」発言について思うのだが、首相の資質に疑問符をつけかねられない発言は慎むべきだろう。(2014年11月4日) ----------------- 徳山喜雄(とくやま・よしお) 新聞記者。近著に『安倍官邸と報道―「二極化する報道」の危機』(集英社新書)。