『どうする家康』作間龍斗×森崎ウィンが放った正反対の輝き 懐かしい“プリンス”の登場も
『どうする家康』(NHK総合)第45回「二人のプリンス」。関ヶ原で敗れ、牢人となった武士が豊臣のもとに集結している。憂慮した徳川家康(松本潤)は、天下の政務を執ってきたのが徳川であることを認めさせるため、豊臣秀頼(作間龍斗)を二条城に呼ぶ。しかし初めて世間に姿を見せた秀頼の麗しさに熱狂する民衆の力と二条城会見での秀頼の行動が、家康を窮地に追い込む。 【写真】老いメイクで溝端淳平に見えない? 老いた今川氏真と徳川家康 家康は秀頼を「涼やかで様子のいい秀吉」と評した。秀頼を演じる作間龍斗には、秀吉を演じていたムロツヨシとは違う、底知れぬ恐ろしさが感じられる。 秀頼の気品のある佇まいや笑みをたたえた顔、妻・千姫(原菜乃華)や家臣らを気遣う姿などに人々は魅了されているに違いない。だが、そんな彼の目つきには、時折いやらしさが垣間見える。ふと、相手の腹の底を探り、出方をうかがっているような雰囲気が感じられるのだ。 かつて秀吉は「人を知るには下から見上げるべし」と考えていた。人は自分より下だと思う相手と対する時、本性が現れる。だから秀吉はなまりを使い、卑しい振る舞いをしながら相手の本性を見極めていた。虎視眈々と天下を狙う茶々(北川景子)に育てられた秀頼もまた、振る舞いに違いはあれど、相手の本性を見極めている。二条城会見で秀頼は老齢の家康を気遣うようにして彼を上段に座らせる。品格のある立ち居振る舞い、それに家康への丁重に詫びを入れる姿は、事情を知らない人々から見れば慇懃で立派な人物に映る。家康は、一枚上手な秀頼にしてやられることになった。 秀頼を演じる作間の佇まいは、人々が求める姿に変化する。宴では麗しく、千姫の前では穏やかに、家康との会見では謙虚に見せる。けれど母・茶々に目配せし、母の意思を汲んだ時に見せた顔が本性といえよう。その企むような微笑みには「欲望の怪物」の片鱗が感じられ、末恐ろしさがあった。 一方で、徳川家のプリンス・秀忠(森崎ウィン)は、征夷大将軍の座を引き継ぎながらも頼りない印象がついてまわる。森崎の自信なさげな表情が秀忠の心許なさをうまく表している。家康に比べるとまだ若く、経験の浅い秀忠は、徳川と豊臣の間で繰り広げられている駆け引きの厳しさを把握しきれていない。かつての家康のように感情が前面に出やすく、第45回ではその顔つきに焦りや不安が強く感じられた。夜眠れずに思いにふける秀忠の暗い面持ちは印象深い。家康が亡くなってしまったら、人々から取るに足らない者と思われている自分は秀頼に負ける。憂うあまり「秀頼は織田と豊臣の血を引く者。私は凡庸なる者です」と卑下する秀忠だが、父・家康からかけられた思いも寄らぬ言葉に心を揺さぶられる。 「そなたはな、わしの才をよく受け継いでおる」 「弱いところじゃ。そしてその弱さをそうやって素直に認められるところじゃ」 「わしはそなたがまぶしい。それを大事にせい」 家康は戦乱の中で自身の弱さを捨てた。強者だと思っていた父の本心に触れ、秀忠は動揺しているようだった。しかし、父の強い意志と自身に対する慈愛に満ちたまなざしが、秀忠に覚悟を決めさせた。目に涙を滲ませながらも、「徳をもって治めるのが王道。武をもって治めるが覇道。覇道は、王道に及ばぬもの」と食らいつくように諳んじる姿、涙ながらに父の言葉を受け入れ、意を決して立ち去る姿には、“偉大なる凡庸”だからこその強さが滲み出ていた。 秀頼と秀忠という二人のプリンスが描かれた第45回だが、今川義元(野村萬斎)のもとで育った家康と今川氏真(溝端淳平)もまた“二人のプリンス”といえよう。天下を取るために弱さを捨てた家康の心は憔悴しきっていた。そんな家康と氏真のやりとりには心打たれるものがあった。 穏やかに言葉を交わす家康と氏真だが、「戦なき世を作り、王道の治世をなしてくれ」という氏真の言葉に、家康は目を背けながら「わしには…無理かもしれん」と呟く。「お主は見違えるほど成長した。立派になった」と讃える氏真を遮り、家康は淡々とした口調でこう言う。 「平気で人を殺せるようになっただけじゃ」 平然とした口ぶりに切なさを覚える。「戦なき世など来ると思うか?」「一つ戦が終わっても……新たな戦を求め、集まる者がいる。戦はなくならん」そう呟く家康の目に涙が溜まる。終わらぬ戦への絶望が立ちこめ、家康は失意の底へと沈んでいく。そんな家康を氏真はグッと抱きしめると、優しく語りかけた。 「弱音を吐きたい時はこの兄が全て聞いてやる。そのために来た。お主に助けられた命もあることを忘れるな」 戦なき世を目指す中で家康は何人もの大切な人を失ったが、救った命もある。氏真の言葉を受け、家康の目から涙が溢れる。しかし弱さを捨ててしまったゆえか、家康の顔はこわばったままだった。 物語の終わり、豊臣が大仏を再建した方広寺の鐘に刻まれた文言により、戦が避けられない状況になった。「とうとう……戦か」と呟いた家康は、押し寄せるさまざまな感情を落ち着かせるように深く呼吸をすると、静かに目を開く。秀忠の世に憂いを残さぬためにも、家康にはまだやることがある。そのまなざしは冷静ながらも、威厳を感じさせ、畏怖の念を起こさせるものだった。
片山香帆