阪神 成熟度が深まる岡田監督の野球 対外試合で俊足ではない若手が見せた2度の好走塁 成長させる「技心体」の理論
ここまで行われた対外試合2試合でハッとさせられるシーンがあった。楽天戦、相手の暴投でホームへ突っ込んだ野口。そして広島戦の初回、無死二、三塁から三ゴロでホームを陥れた前川。映像を見ていると、両者とも「速い」と感じさせる瞬間だった。 【写真】イイもの見てるの?タブレットを見つめてめっちゃ笑顔の岡田監督 後ろの小幡も興味津々 野口の場面は大きく捕手がそらしたわけではなく、微妙なタイミングかと思われた。だが投手がベースカバーに入る前に、鮮やかにホームへ滑り込んだ。前川のシーンも抜群のスタートで広島の三塁手がファンブルすると、もうホームを見ることもなく一塁へ送球した。 ともに阪神では俊足と呼ばれ、足で勝負する選手ではない。それでも光るものを見せたシーンだったように思う。キャンプでは第1クールから赤星氏が臨時コーチとして指導し、第2クールでは岡田監督自ら三塁ベース付近に選手たちを集めて走塁理論を伝授。ともに走者がリード時にラインから離れ過ぎていると指摘した上で、ラインから離れずに本塁までの最短距離を走るべきと語っていた。 さらに岡田監督は「キャッチャーの距離感を惑わさなアカンわけやろ。どのくらいリードしてるのか分からんようにやるには、真っすぐおった方がええわけやん」。三塁から膨らむように離れて立つと、走者のリード幅が一目瞭然となる。一方で本塁と三塁を結ぶ直線上に近づいて立つと、リード幅の距離認識が困難となり、けん制球も投げづらくなると分析した。 「人間の錯覚やからな。直線上におったらな」と指揮官。捕手からの牽制球がなければ、第1リード、第2リードを大きくとれる。そして最短距離を走ることで、ホームへ到達する時間はコンマ何秒かを縮めることができる。その教えをゲームの中で実践したからこそ、はたから見ても「速い」と実感させられる要因になったと考えられる。 昨季、1点を奪う重要性をチームに植え付け、38年ぶりの日本一へ導いた岡田監督。その野球が2年目のキャンプを迎え、成熟してきたように感じる。特にレギュラー選手ではなく、若手選手がこういう走塁を見せたのもポイント。より高いレベルの技術を習得していっている証拠だ。 岡田監督は2軍監督時代、体力、技術、メンタルの3要素で、若手を成長させるためにもっとも必要なのは技術と評していた。「だから技、心、体という言葉になるんよ。技術が先にこんとあかんよ」と指揮官。新たな技術、ハイレベルな技術を示し、そこに取り組むことで体力が備わる。技術を習得するために前向きなモチベーションを保ち、トレーニングの密度も高まる。 そして対外試合の中で実践できれば選手の自信に変わる。そしてまた、新たな技術を習得しようと好循環が生まれ、若手がメキメキと成長して行く。実際に2軍監督時代に育て上げた井川、藤川、野手では浜中、関本らが03年、05年優勝時の欠かせないキーパーソンになった。 岡田監督は広島戦後に前川の走塁について、いいスタートだった?の問いに「おーん。勝手に行ったらしいわ。別に無理せんでもストップにしてたんやけど」と明かした上で、「ストップしてるのに。二遊間のゴロやったらあれ(ゴー)やったんやけどな」と状況判断の部分で一歩進んだ課題を提示した。 今季も現時点で投手陣はリーグ屈指の陣容となっており、野手陣はいかに1点をもぎ取るかがポイントになると予想される。ヒット、ホームランだけでなく、泥くさい1点の取り方ができれば、例え好投手を相手にしても勝ちゲームの可能性を高めることができる。 岡田監督2年目を迎え、新たな境地へ到達しようとしている阪神。前川、野口が見せたスピード感あふれる走塁は、岡田野球の成熟度がより高まっていることを実感させた。(デイリースポーツ・重松健三)