東出昌大、映画への熱い思い「忖度を蹴破る若松孝二監督の情熱。そういうパッションを映画人は失ってほしくない」
「忖度を蹴破る若松監督の情熱。そういうパッションを映画人は失ってほしくない」
――映画では、井上淳一さんの青春時代も赤裸々に描かれていますね。若さゆえの衝動的な姿や、かっこ悪い姿も描かれていたのですが、ご本人は恥ずかしさなどなかったのでしょうか。東出さんから見てどう思いましたか? 東出:いや、めちゃくちゃ美化して書いている!(笑)井上さんの半生が塗り変わったんじゃないかな。それは映画人の願望みたいなことだと思います。 実は、その“美化”を感じて、井上さんに直訴したシーンがあるんです。若松孝二は清濁併せ持つ人で、濁の部分もすごくある人。それを木全さんはもちろんご存知だった。井上青年が日大の芸術学部と早稲田と受かって、「若松監督が早稲田に行けって言いました。なので僕は早稲田に行きます」っていう変な学歴アピールみたいなことを言うシーンがあるんですけど、それに対して木全さんが「ほう、さすが監督やな」みたいに言うんです。そんなときに木全さんって、「さすが監督」って言うのかな…って僕は不思議で。井上青年の「早稲田」という選択は、彼の中では金字塔のようになってるかもしれない。中卒の若松さんは、そのことで苦労したこともあっただろうし「早稲田に行け」って言ったのかも知れない。でも、僕の中では「木全さんがこのセリフを言いますかね?」って納得できなくて。結局「この台本で行きましょう!」ってなりましたけど、そういうところに、井上青年の青春時代の美化を感じました。 ただ、そういうテイストだからこそ、劇場を後にする足取りが軽くなるような作品になったと思います。 …これは僕の問題でもあるんだな。どうしてもドロドロした方を見せたくなるという習性があるんです(笑)。裏には面白い話がたくさんあるので。井上さんは、若松監督の元から逃げて荒井晴彦さんのところに行ったとか、「時間が経って全部美化している井上の台本どうなんだ?」って、当時を知る関係者は言っていましたね(笑)。 そのドロドロを全部経た井上さんが、映画人として一つの形にしたというところがこの作品の魅力でもありますね。 ――色々な伝説をお聞きしていると思いますが、若松孝二監督の現場に憧れはありますか? 東出:僕はお会いしたかったです。難しいところもあったと思いますが、それでもみんなが集まる器の大きさがある方だったのだろうと。お金には厳しくて、ロケ弁を1個多く発注すると怒られるみたいな話も聞きました。ただし、映画をより良いものをするためには厭わない。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』の時は、鉄の球でご自身の別荘をぶち壊したとか。映画人として尊敬してしまうところはあります。 お客さんの心を掴んで動員数もすごかった『キャタピラー』とか、見せてはいけないとされているものを隠そうという忖度を「ふざけんな!」と蹴破る若松監督の情熱。先日の石井裕也監督の『月』もそうですが、そういうパッションを映画人は失ってほしくないし、そういう作品が増えてほしい。若松監督の存在は破天荒ではあるけど、燦然と映画界に輝く経歴、軌跡だと僕は思います。 ――最後に、観客の皆様へメッセージをお願いします! 東出:明るい映画です。今、ミニシアターで上映されるものって、ちょっと小難しいんだろうとか、問題を提起しているとか、そういうイメージがある。このご時世にこれだけ明るい映画がミニシアターでかかることも少ないので、娯楽として気ままに観に来てほしいです。1を知らなくても、若松孝二監督やその時代の人たちを知らなくても楽しめる爽快な青春映画になっています。 写真:You Ishii 取材・文:堤茜子
ABEMA TIMES編集部