『クレイヴン・ザ・ハンター』北米No.3 ソニーのスパイダーマン・ユニバースは終わるのか
ソニー・ピクチャーズによる『スパイダーマン』のスピンオフユニバースが、『クレイヴン・ザ・ハンター』をもって終了する――先週の半ばから、こんな噂が主にSNSを通じてにわかにささやかれた。しかし、この話題はひとまず疑ってかかったほうがよい。 【写真】クレイヴン(アーロン・テイラー=ジョンソン)の凄まじい筋肉 12月13日~15日の北米映画週末ランキングは、前週までと変わらず『モアナと伝説の海2』が第1位、『ウィキッド ふたりの魔女』が第2位。前者は全世界興行収入7億ドルを超え、10億ドル突破がいよいよ見えてきた。後者も世界興収5億ドルを超え、北米のみならず世界規模での大ヒットを記録している。 したがって、今週公開を迎えた『クレイヴン・ザ・ハンター』が非常に厳しいスタートを切ったことは事実だ。週末3日間の北米興収は3211館で1100万ドルと、事前の予測値をさらに下回り、初動成績は『マダム・ウェブ』(2024年)以下、ソニー製作のマーベル映画としてワースト記録を更新してしまった。 本作はソニー・ピクチャーズにとって初のR指定コミック映画だが、とりわけ『デッドプール』以降、もはやR指定は興行的苦戦の理由にならない。製作費1億1000万ドル(当初は9000万ドルの予定だったが、2023年の脚本家&俳優ストライキで金額が膨らんだ)を鑑みると、海外興収1500万ドル、すなわち全世界で2600万ドルというオープニング成績は厳しく、コスト回収の道のりはかなり遠い。 主演は今もっとも注目される俳優のひとり、アーロン・テイラー=ジョンソン。『イコライザー』シリーズの脚本家リチャード・ウェンクは、クレイヴン・ザ・ハンター/セルゲイ・クラヴィノフの誕生譚を、ラッセル・クロウ演じる父親との確執、フレッド・ヘッキンジャー演じる弟との関係を軸としたギャングファミリーものに仕立てた。 筆者としては、監督のJ・C・チャンダーによる思い切りのいいアクション演出も含め、目指すところが比較的明瞭で好印象の作品だったが(『ヴェノム:ザ・ラストダンス』のどうしようもなさを思い出すべきだろう)、Rotten Tomatoesでは批評家スコア15%という低調。観客スコアは72%と悪くないが、出口調査に基づくCinemaScoreでは「C」と評価が乖離気味だ。 ソニーは『モービウス』(2022年)や『マダム・ウェブ』(2024年)でも苦戦を強いられており、一連の経緯を踏まえて『スパイダーマン』のスピンオフユニバースを終わらせることに決めた……というのが、冒頭に触れた噂の中心だ。SNSで拡散された信憑性の低い噂や、バズ狙いの強い言葉を除くとしても、大手業界紙のDeadlineが「『スパイダーバース』やトム・ホランド出演のマーベル作品以外はリセットされる予定」だと記している。 しかしながら、同じく大手業界紙のVarietyは、『ヴェノム』3部作の興行成績がすべて好調だったこと、したがってビジネス的には新作を作らない理由はないことを指摘。少なくとも、今すぐに「ヴェノム」というキャラクターを塩漬けにする意味はないはずだ。 もっと言えば、同じくVarietyが指摘するように、ソニーはこの「スピンオフ・ユニバース」にマーベル・シネマティック・ユニバースほど具体的で緊密なつながりを与えておらず、(意味深な示唆や伏線こそあれ)ユニバースとしての機能はほとんどなかった。しばしば「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)」や「ソニーズ・ユニバース・オブ・マーベル・キャラクターズ(SUMC)」という呼称で語られてはいたが、一部のメディアやコアなファンだけが使っていたもので、一般に広く知られていたとは言えない。 そもそもヴェノムはともかく、マダム・ウェブやモービウス、クレイヴン・ザ・ハンターが、コミックではスパイダーマンの宿敵だという設定をいったいどれだけの人が知っているというのか。逆に言えば、このシリーズはそのことを逆手に取り、コミックファンのみぞ知るヴィランを再生させ、SF・ファンタジー要素のあるダークなアクション映画を作る試みだったともいえる。 その点で言えば敗因は明白で、『ヴェノム』シリーズを含むほとんど全作品のクオリティが高くなかったことだ。コミックや映画のファンを十分に喜ばせることも、新たなファンとなる可能性があった観客を満足させることも、批評や口コミによって支持を広げることもできないまま、ゆるやかに信頼を失っていったのだろう。「スーパーヒーロー映画疲れ」の話題が広がったのと時期が重なったことも手痛かったのではないか。