【原爆の日】次代への責任問われる(8月6日)
広島はきょう6日、長崎は9日に戦後79回目の原爆の日を迎える。被爆者の積年の願いとは裏腹な国際社会の潮流に、核廃絶の道の多難な現在地を思い知らされる。唯一の被爆国として政府、政権は核兵器のない世界を、理想から現実に近づける使命を置き去りにしてはいないか。次世代への責任として不断に問うていく必要がある。 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると、今年1月時点の核弾頭数は推計1万2121発に上る。ロシア5580発、米国5044発で、両国で依然、9割近くを占めている。中国はこの1年で90発増の500発、北朝鮮は20発増の50発に達したとみられるなど、核軍備の拡大と実戦配備が進む。 ロシアはウクライナに対して核の威嚇を続ける。台湾情勢は不透明感を増す。不毛な核戦力の拡大は、保有によって互いをけん制し、使用を躊[ちゅう]躇[ちょ]させる核抑止の次元を超え、一触即発の危機を高めかねない。にもかかわらず、分断が進む国際社会にあって国連は機能不全が取り沙汰され、歯止めのない現実は事実上、放置されたままだ。
日米両政府は先月、核を含むあらゆる戦力で米国が日本の防衛に関与する「拡大抑止」を強化することで合意した。米国の「核の傘」を軸にした日本の抑止力を誇示し、ロシアや中国、北朝鮮に対抗する狙いがあるという。 岸田文雄首相はG7広島サミット(先進7カ国首脳会議)で、核兵器のない世界の実現を強調する共同文書の取りまとめを主導した経緯がある。一方で、防衛目的の保有を正当化した文書の矛盾も指摘された。それでも、核廃絶を不変の目標に据えてG7、とりわけ日本が国際社会への働きかけを強めようとしているなら、道はまだある。核兵器のない世界をいくらうたっても、努力の痕跡が見えない中では実効性が疑われる。 核兵器禁止条約は発効から3年を迎えた。現在、70カ国・地域が参加しているが、厳しい安全保障環境下、賛意拡大は正念場にある。 今夏の式典で、被爆者は重ねて核廃絶を訴える。辛苦の記憶に背を向けてはなるまい。岸田首相と各国代表団は切なる声をしっかりと胸に刻み、核なき平和への誓いを形にすべきだ。(五十嵐稔)