北朝鮮兵のロシア・クルスク州への派遣を確認 NATO事務総長
北大西洋条約機構(NATO)のマルク・ルッテ事務総長は28日、北朝鮮の兵士らがロシアに派遣され、西部クルスク州で活動していると初めて明らかにした。同州にはウクライナ軍が侵攻し拠点を設けている。 ルッテ氏はこの日、韓国の安全保障・防衛当局者らと会談。その後、ここ数週間の情報から派兵を確認できたと述べた。 今月初めにNATO事務総長に就任したばかりのルッテ氏は、この派兵について、ウクライナにおけるロシアの戦争の「著しい深刻化」と「危険な拡大」を示すものだと位置づけた。 ルッテ氏はまた、北朝鮮が弾道ミサイルと数百万発の弾薬をすでにロシアに送っていると説明。その見返りとしてロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、国際的な制裁に直面している北朝鮮に対し、軍事技術などの支援を提供することに同意したと述べた。 そのうえでルッテ氏は、両国の協力関係が「世界の平和と安全を損なっている」と付け加えた。 北朝鮮が兵士数千人のロシア派遣の準備を進めているとの報道は、しばらく前から出ている。ロシアのプーチン大統領は先週の記者会見で、北朝鮮兵のロシア到着を否定せず、「私たちの主権に基づく決定だ」、「使うかどうか。どこでどのように使うか。演習なのか訓練なのか。経験を伝えるのか。私たちが決めることだ」と述べた。 北朝鮮兵の正確な派遣規模は不明。米国防総省のサブリナ・シン報道官は28日、約1万人がロシア東部での訓練に送られ、「一部」はすでにウクライナに近づいているとの見方を示した。そして、ロシアがそれら北朝鮮兵を「戦闘や、ロシア・クルスク州でのウクライナ軍に対する戦闘の支援に」使うことを、アメリカとしていっそう懸念していると付け加えた。 韓国の情報機関は今月初め、少なくとも1500人がすでにロシア入りしたと指摘していた。 ■西側首脳が懸念を表明 北朝鮮兵がすでにクルスク州で活動しているというルッテ氏のこの日の警告に、西側各国は懸念を示している。 欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「北朝鮮の兵士は、ロシアの侵略戦争を支援するために派遣されている。現在の戦争の重大なエスカレーションで、世界平和への脅威だ」と「X」に投稿。欧州連合(EU)として、「私たちと同じ姿勢のパートナーたちと共に対応していく」とした。 アメリカのジョー・バイデン大統領は、北朝鮮がウクライナでロシアを支援するのは「非常に危険」だと述べた。 北朝鮮による派兵をめぐっては、ロシアのプーチン大統領に忠実なベラルーシの指導者アレクサンドル・ルカシェンコ氏も先週、「紛争激化への一歩」だとBBCに危険性を警告している。 こうしたなか、ロシア西部クルスク州では、ウクライナ軍の電撃作戦による侵攻から2カ月以上たった現在も、同軍とロシア軍が戦闘を続けている。 ロシアは同州に兵士数千人を再派遣し、ウクライナの前進を阻止しようとしているとみられている。一方、ウクライナは同州の約250平方キロメートルを掌握しているが、ウクライナ東部にいるロシア軍を分散させて勢いをそぐという主要目的は果たせなかった様子。 そうした状況で、北朝鮮軍がクルスク州に到着すれば、ウクライナ軍の部隊はさらに窮地に追い込まれる可能性がある。 米紙ニューヨーク・タイムズはウクライナの高官の話として、北朝鮮兵の精鋭約5000人が28日までに、国境地帯のロシア軍に合流する予定だと伝えた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領も25日、この兵士たちが数日内に戦場に到着するかもしれないとの情報があると述べた。 ■北朝鮮兵の効果に疑問の声も ロシアが2022年2月にウクライナ侵攻を開始して国際的に孤立状態に置かれて以来、同国と北朝鮮は接近している。今年6月には、他国に「侵略」された場合は相互に支援すると定めた包括的戦略的パートナーシップ条約に署名した。 アメリカは、北朝鮮が弾道ミサイルや発射装置など大量の軍事物資をロシアに送っていると、繰り返し非難している。 ただ、専門家の中には、言葉の壁や北朝鮮兵に最近の実戦経験がないことから、北朝鮮軍がどれだけロシア軍の助けになるのか疑問だとする人もいる。 ウクライナの国防情報当局が入手した最近の映像には、北朝鮮兵らをどう指揮・補給するのか、ロシア兵らが疑問視する様子が映っているとされる。 NATOのルッテ事務総長は、ウクライナで2年半以上続く戦争で、ロシア兵60万人以上が死傷したと説明。ロシアについて、「外国の支援なしにウクライナへの攻撃を維持できない」状態になっていると述べた。 一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、ロシア兵の死傷者は約65万人に上っていると、インド紙タイムズ・オブ・インディアのインタビューで発言。「向こう(ロシア)は遺体を収容していない。(中略)向こうの人々は地面で腐敗している」とした。 死傷者数については、どちら側からも公式な発表はほとんどない。 しかし、BBCロシア語は、7万人以上のロシア兵が戦死したと分析している。 ゼレンスキー氏は2月、約3万1000人のウクライナ兵がロシアによる全面侵攻以降に死亡したと述べた。 いくつかの西側メディアは、死者数はもっと多いと推定している。 (英語記事 Nato says North Korean troops deployed to Russia's Kursk region)
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