企業の有給消化義務 「5日」で調整へ どんな意味があるのか? 労働政策研究・研修機構研究員 高見具広
そこで今回の政策である。例えば、これまで取得率が低かった小売業や宿泊業、あるいは中小企業などでは、ぎりぎりの人員配置ゆえに「休ませられない」という事情が背景にあっただろう。そうした企業で、交代で社員を休ませるために要員管理のあり方を見直すならば、経営側にとっては一時的に苦労が伴うが、そこで働く者(これまで全く休めなかった者)にとっては朗報だろう。 変わって、職場風土のために有休を「取りにくかった」人の場合はどうか。これまで「休みにくかった」社員が休みやすくなるには、法律の仕組みだけでは足りず、ひとえに企業の運用にかかっている。例えば、企業によっては、夏休み・年末年始・GWなどの休暇時期に合わせる形で「5日分」の取得促進を図るケースも考えられる。その場合、大型連休は実現しやすくなるかもしれないが、社員が「休みやすくなった」と感じるかには疑問が残る。「特別な時期」を除けば「休みにくい」ことには何ら変わりがないからである。職場風土の改革は、今後も取り組む必要のある課題だ。 もっというならば、成果で管理されることも多い専門職や管理職などでは、ただ「休みを取らされる」だけだと良い面ばかりではない。休んだ翌日にその分業務が積み上がるならば、休日はそう嬉しく過ごせない。場合によっては自宅で仕事をすることにもなりかねない。そうなると社員の満足にも寄与せず、逆にモチベーションを下げることさえもありえよう。 新しい仕組みによって、有休をこれまで全く取れなかった者、サービス業や中小企業で働く者の取得がすすみ、平均的に見れば取得率70%という政府目標に近づくかもしれない。ただ、以上の問題をクリアするには、「仕組み」を入れただけでは十分でなく、今後の企業の運用にかかっていると言えそうだ。 ------------------------ 高見 具広(たかみ・ともひろ) 1978(昭和53)年生まれ。独立行政法人労働政策研究・研修機構研究員。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。専門は産業・労働社会学。労働時間、ワーク・ライフ・バランスなどの研究を行っている。