『Eye Love You』侑里とテオの“両片想い”に終止符が打たれる 目頭が熱くなる花岡の優しさ
私たちは、記憶を積み重ねていくことに喜びを感じられる生きものである。“この流れは、あのときと同じだ!”。そんなふうに繋がる愛しい記憶が、今この瞬間をより深く心に刻ませる。 【写真】侑里(二階堂ふみ)とじゃんけんする花岡(中川大志) 火曜ドラマ『Eye Love You』(TBS系)第6話は、中島啓介プロデューサーが「前半の最終回」と語っていたように、大きな節目となった。人の心の声を聞くことができるテレパスの能力者ゆえに、人と本音で向き合うことができずにいた侑里(二階堂ふみ)と、そんな彼女が初めて抵抗なく心を開くことができたテオ(チェ・ジョンヒョプ)、そして侑里を誰よりも近くで支え密かに愛し続けていた花岡(中川大志)が、それぞれの想いに決着をつけた。その1シーン1シーンが、第1話から見続けてきた視聴者にとって「ここであの場面と繋がる」と切なさや喜びを呼び起こした。 第6話の舞台は、奇しくも侑里がテレパスの能力を身につけるきっかけとなった北海道。もともとは他のメンバーと一緒に出張するはずだったのだが、なんの運命のイタズラか気づけば3人だけの旅路に。花岡がずっと自分を想っていたことを、偶然に心の声を聞いて知ってしまった侑里。テオへの恋心を伝えたい気持ちはありながら、恋愛とはまた別の意味で大切な人である花岡を傷つけてしまうことにも葛藤があった。 そうして本心とは裏腹にテオの告白を断ってしまった侑里と、振られてしまったテオ、そして自分の気持ちに蓋をして2人がうまくいくことを願う花岡という、複雑な心境を抱えた3人の間には気まずい空気が漂う。北海道に到着してからも侑里は、花岡の推す海鮮丼と、テオが食べたいと言うスープカレーとの間で揺れ動く。それは、まるで花岡とテオのどちらかを選べと言われているような気がして、侑里にはなかなか決断できない。結局ラーメンという第三の選択肢で逃げ道を確保するのだが、その店内でもテーブル席でどちらの隣に座るのかという選択を迫られるのだった。 そんな些細なやりとりからも、もう侑里が逃げることを終わりにするタイミングに来ているのだと感じることができた。ここは、侑里が人生を大きく変えることになった始まりの地。そこにテオという運命の相手と共に来ることになったのは、テレパスによって心を閉ざすことを終わりにするためだったのではないだろうか。 振り返れば、侑里はずっと逃げる選択肢を取ってきた。ビジネスでこそ、このテレパスの能力を活かして成功に導く強かさを見せたが、ことプライベートに関しては年々本音でぶつかることを避けるようになっているように見えた。今も心の声を読まないようにと、できるだけ人と目を合わせないようにしているのがうかがえるのも、その証。それは誰よりも信頼している花岡相手でさえもそうだ。だが、このままでは侑里が本当に掴みたいと願った幸せをも逃してしまうだろう。実際に、テオとの関係も手放しそうになっていたのだから。そんな逃げ続けてきた侑里が、自分の本音に正直になるために、神様が導いた場所だったように思うのだ。 そんな侑里の葛藤をも受け止めた花岡とテオ。しかし、その愛情のカタチもまた真逆なものだった。花岡は、言葉にならない想いに苦悩する侑里に「言わなくていい。言わなくてもわかる」と告げ、テオのもとへと向かうように促す。それでも、花岡のもとを去ることをためらう侑里に「じゃんけんで決めよう」と提案する。 私たち視聴者はもう、そのじゃんけんがどんな意味を持っているのかを知っている。じゃんけんをするときには心を読まないようにと目をつぶる侑里。そのクセを知っている花岡は、いつだって侑里が目を開ける前に自分が負けるように調整してきた。勝ったと喜ぶ侑里の笑顔が見たくて。侑里に幸せになってほしくて……。学生時代から続く、侑里と花岡のじゃんけんシーンに思わず目頭が熱くなる。花岡の眼差しからは、こんなにも侑里への愛情が溢れているのに、人の目を見ることを恐れてきた侑里にその温かな視線は届かない。 そんな、いつも“じゃんけんに弱い”花岡が、今回は「勝ったら迷わずテオのもとへ行け」と言う。もちろん、じゃんけんはいつもの通り目をつぶった侑里の出した手を見た花岡が、自分の手を調整して勝つことになる。「行って来い、本宮。いいから行って!」。花岡の眼差しは、相変わらず愛情で溢れている。侑里もその目を見つめて「ありがとう、花岡くん」と告げることができた。花岡の優しさに逃げるのではなく、本心から感謝を伝えることができたのだ。テオのもとへと向かうその一歩は、ただ好きな人のもとへ向かうだけでなく侑里の成長を大きく感じさせるものとも言えるだろう。 そうしてテオと対面した侑里だが、そこでも自分の気持ちをなかなか言葉にすることができない。すると、今度はテオがそんな侑里の本音を言いやすいように気を利かせてみせる。それは、2人が出会ってまだ間もないころにした会話の再現だった。そのときも、テオはベランダにいて、侑里は下の道に立っていた。 「侑里さん、お米は好きですか?」その一声で蘇る風景がある。「はい、好きです」と答える侑里の表情に、もう迷いはない。「カレーは好きですか?」「チャーハンは好きですか?」「オムライスは好きですか?」「じゃあ、僕は?」。その問いかけに、「僕も好きです!」と即答する侑里。「テオくんのことが好きです。大好きです」。この言葉と同時に、侑里が心の壁を壊す音が聞こえたような気がした。「もう誰にも恋はしない」と閉じこもっていた自分自身を解き放つ強い決意。それだけの意味がある告白だった。 そして、いつも侑里に逃げられてきたテオにとっては、初めて心をさらけだして自分に向き合ってくれたその言葉に、思わず胸が詰まったようだった。泣くように笑う表情と共に「すごく愛してる」と叫ぶテオ。その姿に、涙腺が刺激されてしまった。ようやく素直な想いを告げることができた侑里。だが、この土地からまた新たな展開が始まるようだ。テオと名刺交換をした投資家のミン・ハナは、おそらく人の心の声が聞こえる少女の絵本を読んでくれた、あのヌナ(お姉さん)だ。人の目を見ながら左耳に手を当てていたことから、彼女自身も侑里と同じくテレパスの能力を持っているのではないかと予想できる。なぜ彼女が今テオのもとへと姿を現したのか。そして、すぐにまた姿を消した理由とは……。 そして、アイヌの伝承にもオハイヌ(神の声を聞く力)を持つ少女の話があるようだった。また、並行してテオの父親代わりでもある飯山教授(杉本哲太)が韓国語で“心の声 聞こえる 少女”と検索した結果、「見つけた」とつぶやいた言葉も気にかかる。侑里とテオの両片想いに終止符が打たれ、恋人として仲睦まじい姿を見せてくれるのかと考えると、思わず頬が緩んでしまうところ。だが、テレパスの能力に付随する謎にも少しだけ心がざわつく。2人ならきっと乗り越えてくれると信じながら、紡がれる新しい章を楽しみにしている。
佐藤結衣