ノージャパン再来か、ポピュリズム国家・韓国の国会議員選に見る民主主義の限界
(立花 志音:在韓ライター) 4月10日に韓国で国会議員選挙が行われた。尹錫悦大統領の就任から2年弱、彼の功績が判断される選挙でもあった。しかし、選挙前から与党「国民の力」は分裂し、新党を結成する者もあり、内部事情はガタガタであった。 【写真】今回の総選挙で復活した「タマネギ男」こと元法相の曹国氏。ソウル大の教授だった彼は見た目も戦略もスマートだった 対する革新系の野党「共に民主党」は、大統領選で敗北したものの、直後の国会議員補欠選挙で返り咲いた李在明代表が力を蓄えていた。 李在明代表には前科がいくつもあり、いまだ疑惑も多い。尹錫悦氏が大統領が当選したら、一番最初に逮捕されて”監獄行き”になる人物だと誰もが思っていた。おそらく支持者でさえもそのように考えていただろう。 インターネット掲示板に、「なぜ大統領は、李在明代表を逮捕しないのか」という質問があった。その回答として、「できることならとっくにしているだろう。できない理由があるんでしょう」「どれだけ金をまいたら逮捕されずに、あのようにのうのうと生きてけるのだろうか」などという意見が書かれてあった。 李在明代表が拘束されない理由は、はっきりとは分からない。 そして、今回の選挙で国民は現職の大統領を支持せずに、李在明代表と野党「共に民主党」を選択した。与党は、議席300のうち過半数を超える175席を共に民主党に取られ惨敗した。厳しい選挙戦になることは筆者もある程度予想はしていたが、 これほどまでとは思わなかった。 李在明代表は11日に「これは共に民主党の勝利ではなく、国民の偉大な勝利だ」と発言している。 尹大統領は選挙から1週間がたってようやく、「就任後の2年間、国民だけを見ながら国益のための道を歩んできたが、国民の期待に達しなかった」という発言をしたが、筆者は違う所に問題点があるのではないかと思う。 今回の惨敗は、大統領が国民の意向に沿おうとしてしまったことが間違いだったのではないか。
■ 国民のレベルに合わせてしまった大統領の失敗 国民のほとんどは忘れてしまったように思えて仕方がないのだが、2年前までこの国は文在寅政権だった。 日本から見ても、国際的に見ても、非常に頓珍漢な政権運営だった上に、卵からマンションまで物価上昇が止まらなかった。そして、中国と北朝鮮の機嫌をうかがいながら、アメリカと日本を仮想敵国とするかのような外交を繰り広げていた。 その暗黒の5年間から脱出するために発足したと言っても過言ではない現政権である。「わたくしがこの国の間違いを正して差しあげます」くらいの、転生系漫画の主人公がやるような政権運営でもよかったのではないだろうか。 筆者の夫が言うには、「この国では、成功しても失敗しても散々に言われるのだから、自分の信じた道を生きるしかない」のだそうだ。 韓国の辞書に「大統領再選」という文字はない。どんな名宰相であっても、5年たてば否応なくその席から永遠に降りなければならないのだ。 2年前に尹大統領が就任した時から、議会はねじれ状態で、国内政治を思うように動かすことがいばらの道だということは分かっていた。だからこそ、大統領は外交に力を入れたのだろうし、一番初めに日本との関係修復に力を注いだのだろう。 また、「大韓民国のセールスマン1号になる」と公言して、アメリカの大企業と韓国財閥系企業の交流の促進もした。国賓として訪問したアメリカでは、「A long long time ago~」とアメリカンパイという現地の有名曲を歌って歓声を浴びて帰国した。 ところが、国民のほとんどは尹大統領が何をしたか分かっていない。文在寅前大統領の支持者たちは、前大統領の功績を食いつぶしているだけだと本気で思っている人も多い。 そのような国民から一線を画した政治をすれば良かったのに、尹大統領はその国民のレベルに自らの足並みを揃えてしまったように見える。国民の支持欲しさにポピュリズムに走り、本来の支持層の票を失ったのである。