レガシー産業からのDX 競争しない戦略と共創で生まれた新規事業
レガシー産業で新規事業を推進する事業承継者の挑戦をテーマに、配管とダクトの設計・製造・施工から販売までを手がける「ホーセック」代表取締役の毛利正幸さんと、データを利用したスマート漁業やMSC認証を取得した持続可能な漁法を実践しようとしている「浅野水産」常務執行役員の浅野龍昇さんを招いた無料のオンラインセミナー(ツギノジダイ・グロービス経営大学院とオープンイノベーションに特化したWEBプラットフォーム「AUBA」共催)を開催しました。それぞれレガシー産業のなかで、どうやって新規事業を生み出したのか、キーワードは「競争しない戦略」と「共創」です。 【写真特集】事業再建や売上7倍増を実現 DXに成功した中小企業を紹介
「一番の安売り業者」が競争しない戦略へ(ホーセック)
毛利さんは、大学卒業後にイベント会社を経て、20年前に家業のホーセックに戻りました。 ホーセックは、建設業界の空調衛生設備の設計や施工をしている会社で、毛利さんの入社当時は、老朽化で生産性の低下した工場の生産設備や、退職して優秀な技術者の抜けた穴を補うため、人海戦術で切り抜けようとする状況だったと振り返ります。 当時「京都で一番の安売り業者」として知られていました。現場は毎日朝6時に会社に集合し、夜中の12時まで図面を書いたり、明日の準備をしたりしているような状況でした。 厳しい労働環境でしたが「そんな状況でも頑張ってくれている社員がいる。社員とその家族のためにも、今自分にできることは、身近な課題を整理して一つ一つ解決することだ」と考えていたといいます。 社内でトラブルが続くなか「このままでは、自分が育てた守るべき部下も会社も守れない」と考え、毛利さんは先代社長に対し「当時のナンバー2がトップになって私が辞める方がいいのか、私に継がせて仕切り直すのか」と事業承継者を正式に決めてほしいと依頼。その1ヵ月後、事業承継者として正式に任命されたのが入社8年目のことでした。 すでに金融機関から新たな借入もできない状況でしたが、「やると決断した後は、とにかく、事業の継続性を高めるために、経営改善の取り組みを計画し、実行することです。 このとき、この経営がうまくいく保証はどこにもない。ただ、うまく行かなくても、絶対に妥協をしない、自分だけでなく、全社員にとっても、理想である形を追い続けることを、心に決めていました」と明かします。 正式に事業承継者として「力」をもらったことで、少しずつ変わり始めました。 たとえば、ITの活用による現場業務の効率化と内製化で、外注費を45%から20%へと大幅に削減し、1億円以上の1案件の粗利を45%にできました。さらに、経費削減を進めるなか、削減した経費の予算だけで、十二分にシステム開発やインフラ整備を進めることもできたのです。