NHK大河「光る君へ」越前パート突入! 謎多き男・周明の正体は?…第23回みどころ
女優の吉高由里子が主演するNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜・後8時)の第23回「雪の舞うころ」が9日に放送される。 大石静氏が脚本を手がけるオリジナル作品。大河ドラマではきわめて珍しい平安時代の貴族社会を舞台に、1000年の時を超えるベストセラー「源氏物語」の作者・紫式部/まひろの生涯に迫る。2日に放送された第22回「越前の出会い」をもって、物語の舞台は越前へ。越前国守として赴任した父・為時(岸谷五朗)と娘・まひろ(吉高)が新たな地で遭遇した宋人の文化や価値観などが丁寧に描かれ、越前編がいよいよ幕を開けた。 筆者がここまでの人生で触れてきた文学や日本史の知識ではまったく歯が立たない越前パート。学生時代に流し読みした「今鏡」や「日本紀略」などからうかがい知るに、このころ越前に宋人がいたということ、リーダー格の朱仁聡(浩歌)は実在していたということ、朝廷に羊を献上した史料が残っていることぐらいしか知らない。未熟な書き手であることは百も承知だが、背伸びして知ったかぶりすることでもないと思うのでどうかお許しを。 周明(松下洸平)の描写など、大石氏の創作の度合いも大きいパートであるため、ここから京に戻るまでの数回は完全に視聴者目線での感想になるのだが、総じてめちゃくちゃ楽しんでいる。日本の歴史に即している「大河ドラマ」というジャンルは本来、究極のネタバレストーリー。しかしここからは結末がうかがい知れないワクワクも味わえるわけで、思わぬ僥倖(ぎょうこう)に興奮しきりだ。 宋人が滞在する敦賀の松原客館を訪れたまひろ親子は朱らから歓待を受ける。初めて目にする羊肉にも果敢に食らいつくなど、まひろの旺盛な好奇心も相変わらずで、浜辺でたそがれる周明にも屈託なく話しかける。砂浜に名前を書くシーンは、幼少期のまひろ、三郎(道長=柄本佑)の出会いの場面がダブり胸がキュンとした。 ミステリアスな男・周明は、慣れない国守業務で体調を崩した為時のもとに医師(くすし)として参上。鍼(はり)治療をほどこしただけでなく、通事・三国若麻呂(安井順平)の急死をめぐってのラストシーンで「話があって来た。朱様は通事を殺していない」といきなり日本語をしゃべり出す謎っぷりで度肝を抜く。実資(秋山竜次)ではないが「不可解、不可解」と言いたくなるサスペンス展開にザワザワする。 筆者はここまで、第9回で惨殺された散楽の役者兼盗賊の直秀(毎熊克哉)への愛をことさら叫んできた。貴族社会の話を描くとどうしても天の目線、というか殿上人視点になりがちなところ、市井(しせい)で暮らしてきた直秀らの目線を借りることで、より「光る君へ」という物語の持つ宿命が浮き彫りになったと思っている。直秀がまひろを連れて行きたかった「海の見える国」を舞台に、周明らが抱える宋の人々の新たな目線や苦悩を通じ、まひろの運命もまた次なるフェーズに入っていくことだろう。 細かい感想を記しておくと、まひろが「かきくもり夕たつ浪のあらければ 浮きたる船ぞしづ心なき」の和歌を書き付ける越前和紙の見事さにほれぼれ。この和紙からいろんな文や和歌が生み出されると思うと心華やぐ。 越前だけではなく内裏でも事件が続発。定子(高畑充希)の懐妊を知った道長と一条天皇(塩野瑛久)の混乱からの対立は、この先も尾を引くだろう。殺ばつとした展開のなかで、「俺って優しいからな」と照れ隠しのように自称する検非違使(けびいし)別当・公任(町田啓太)が、母の死に目に駆けつけた伊周(三浦翔平)に情けをかけるマジな優しさが五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染み渡った。 さて、越前サスペンス劇場の続きが描かれる第23回は、日本語で朱の無実を主張した周明の必死な訴えが功を奏し、朱は解放されることに。朱は為時だけに越前に来た本当の狙いを語り、その一方で周明もまひろに自分の過去を明かす。周明との交流が深まっていくなか、宣孝(佐々木蔵之介)は為時とまひろに会いに、越前を訪れる―という展開が描かれる。 周明の抱える謎の一端が明らかになる回。こんな境遇を聞かされ「どうして愛さずにいられようか、いやない」とかつて国語の授業で習った反語表現を使いたくなる。周明の創作部分はすべてが初見なので、ただのドラマファンとして新鮮に見ているし、読者のみなさまと考察しながら意見交換できると思うと、ここに来て新しい大河の楽しみ方を提示してもらっている気がする。来週もみなさまの感想をお聞きしたいです。では再見。(NHK担当・宮路美穂)
報知新聞社