『東京タワー』を成立させる永瀬廉の思慮深い佇まいと大胆さ 駆け引きのバランスが秀逸
透(永瀬廉)と耕二(松田元太)が示す“不倫”のグラデーション
“陳腐”といえば、自分に感化された耕二が家庭教師をする教え子の母親・喜美子(MEGUMI)に寄せる好奇心と自分の詩史への気持ちを同質化されたくない透が、珍しく語気を強めて言った「俺とお前は違う、絶対に違う」は、透が「これはそこらへんに転がっている“不倫”ではない」と訴えているかのようだった。喜美子自身というよりも“人妻”や“年上の女”という彼女が持つ記号に興味を示す耕二に対して、「年上だから好きになったんじゃなくて、好きになった人が年上だった」とする透。この2人がいることでいわゆる“不倫”と一括りにされる恋愛模様にもグラデーションが広がっていること、許されぬ恋の中にもとってもピュアな部分があることが強調される。 本作は透から詩史へのひたむきな純愛というものがなければ、それこそ一気にチープになってしまうが、透役の永瀬廉の駆け引きのバランスが秀逸だ。彼女に翻弄されながらも彼女に振り回されるだけではない。主導権を詩史に握られながらも“上下関係”が出来てしまわず、詩史のような捉えどころのない自立した年上女性に引っかかりを常に与え続け、完全には関係が断ち切れない。手強い詩史にとって“番狂わせ”を起こさせる存在であり続けなければならない透という存在を、見事に体現している。 彼との関係を精算しようとした詩史に「僕は今までいろんなことを我慢していた(中略)でも詩史さんのことだけは我慢したくない」なんてあんなに切実に訴えられたら、決意が揺らいでしまうのも頷ける。理屈や倫理観を吹き飛ばすような求心力がなければ透と詩史の関係も、このストーリー自体も進行しないが、それを牽引する透役の永瀬の思慮深い佇まいと、時に発揮される大胆さによって、この作品が成立しているように思える。 傍から見れば、医学部生の透と超売れっ子建築家の詩史という、それぞれ社会にしっかりと居場所のある2人だが、彼らは彼らにしか見抜けず分かち合えない“寂しさ”を共有し合い、惹かれ合っている。東京タワーを見て“寂しそう”と思うその感性で引き合わせられた2人には、2人にしか作り出せない空気感があり、それを前に年齢もあらゆる諸事情も、たとえその人が自分の母親の友人だとしても、そんなことは障壁にはならないのだろう。 恋に落ちてしまった透の変化、そしてその相手が詩史だろうことに早くも気づいていそうな陽子がどう関わってくるのか、好奇心から始まってしまった耕二と喜美子の2人の関係性とともに注目したい。
佳香(かこ)