「危ないサプリ」の報道は正しいのか?小林製薬の健康被害は、紅麹サプリメントだから起こった問題ではない
長い食経験ある紅麹
今回の事案で最も風評被害を受けているのは紅麹を使った食品ではないだろうか。もちろん、小林製薬が最初に会見を行ったときには何が原因か分からなかったので、サプリの主成分である紅麹を危険と思うのは普通の反応だ。しかし、3月29日の会見で、健康被害と関係が疑われる「未知の成分」は青カビがつくるプベルル酸である可能性が高いことが分かり、紅麹との関連は否定されている。 紅麹は古代から中国や台湾で紅酒、紅豆腐などの発酵食品に用いられ、日本でも沖縄の「豆腐よう」などを作るのに使われてきた。また、紅麹から作られるベニコウジ色素は、数十年にわたり着色料として菓子や漬物などさまざまな食品に使われている。
長い食経験は、その食品が安全であることを示す証ともいえる。現在市販されている紅麹を使った食品に問題はなく、過度な不安は禁物だ。 振り返れば、食品が原因で健康被害が起きたり安全性が問題になったりするたびにさまざまな食品で風評被害が繰り返されてきた。堺市の給食によるO157事件ではカイワレ大根、牛海綿状脳症(BSE)では牛肉、中国産冷凍ギョウザ事件では中国産食品、東日本大震災による原発事故では福島産の農水産物……。これらの食品は、安全性に問題がないことが分かってからも風評被害で売れなくなり、安く買いたたかれるなどした。 風評被害で売れなくなった食品の生産者の中には自ら命を絶った人もいた。風評被害は人の命をも奪うのだ。 繰り返していう。機能性表示食品もサプリメントも紅麹を使った食品も、現在市販されているものは安全性に問題があるわけではない。風評被害で生産者を追いつめないためにも、消費者一人ひとりに冷静な判断が求められている。
食の安全をどう守るか、唐木英明・東京大学名誉教授に聞く
――健康被害が出たのが機能性表示食品。同制度を見直すべきという声が上がっている。 今回のような健康被害はあってはならないことだが、機能性表示食品だけでなく、すべての食品で起きる可能性があるものだ。食品の製造責任は100%企業にある。食品による健康被害の90%以上はヒューマンエラーで、法律やガイドラインを厳しくしても、それが順守されなければ意味がない。 ――回収命令が出ている商品は原料生産にGMP(製造管理及び品質管理の基準)がなかった。安全のためにGMPを義務化するべきでは? 医薬品はGMPが義務化されているが、にもかかわらずジェネリック医薬品に睡眠導入剤が混入した小林化工事件が起こっている。どんなに厳しい規制をしても、製造工程でそれを順守しなければ何の意味もない。 また、機能性表示食品でGMPが努力義務になっているのは、機能性表示食品が「食品」だからで、他の食品と区別する法的根拠がないから。厳しい規制、厳しい製造工程管理、そしてこれを遵守する「安全文化」の3点がそろって初めて安全が保たれる。健康食品分野でこれを実施するためには、GMP義務化でなく、健康食品と一般食品を区分する「健康食品法」が必要だ。 ――紅麹のような発酵食品はコントロールが難しいのでは? 発酵食品のクリティカルコントロールポイント(CCP=重要管理点)は雑菌を防御することだ。発酵食品は加熱殺菌できないとはいえ、雑菌を防御する方法はある。 とくにカビは有毒成分なので、厳重にコントロールされるべきものだ。原料にカビが入り込んだのであれば製造方法に間違いがあったと考えざるを得ない。