“アニメ監督”ヨン・サンホだからこその『寄生獣』 『豚の王』『フェイク』など過去作も必見
アニメ映画とは思えないほど現実的で衝撃的だった『フェイク~我は神なり』
例えば、2013年のアニメ映画『フェイク~我は神なり』。本作では、怪しいカルト教団が寒村に忍び込むことによって起きる混乱が描かれる。『寄生獣 -ザ・グレイ-』『地獄が呼んでいる』でも教会や宗教が扱われたが、監督の関心事の一つなのだろう。韓国のカルト宗教事情を知るにもうってつけの作品だ。 その内容は、アニメ映画とは思えないほど現実的で衝撃的である。カルト教団は巧妙な手口で村に入り込み村人を騙して餌食にしていくが、教団の裏の顔を村の厄介者である中年男が見抜く。だが、彼の忠告を村の人々は誰も聞き入れない。やがて実の娘もカルト教団と関係するようになり、男は孤独な闘いを強いられる。そんな中で、また新たな悪が生み出されていく。 ちなみに、この『フェイク~我は神なり』を原作にした『約束の地~SAVE ME~』というドラマもある。ヨン・サンホ監督は脚本にも演出にも参加していないが、尺が長いというドラマの特性を活かし、より“社会”にスポットを当てた内容に改変されているのが興味深い。韓国ドラマとしてはあまり知名度は高くないものの、原作の魅力をしっかり昇華させた実写リメイクの傑作といえる。 個人的にはヨン・サンホ監督のアニメ映画作品がとても好きだが、昨今の実写映画に比べるとエンターテインメント性に乏しく、見劣りがすると感じる人もいるだろう。確かに、中学時代のイジメを発端にした惨劇が描かれていくアニメ映画『豚の王』(こちらもドラマ版もあり)などは、スカッとするアクションもなく、あまりの救いのなさに観た後は暗澹とした気持ちにさせられる。 だが、アニメ映画から『寄生獣 -ザ・グレイ-』まで連綿と見て取れる、監督の人間社会の本性への関心。ヨン・サンホワールドを解き明かす鍵は、ここにあるのかもしれない。最悪な状況下で、はたして人間や社会は何を掴み取るのか。『寄生獣 -ザ・グレイ-』のラストは次の物語を匂わせる形で終わったが、シーズン2ではそうしたヨン・サンホ監督の作家性がさらに深く発揮されることを期待している。 参照 ※ https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/1136038.html
高山和佳