前橋汀子 傘寿を迎えてもあくなき探究心…20回目のアフタヌーン・コンサート
日本を代表するバイオリニスト、前橋汀子のライフワークである「アフタヌーン・コンサート」が、22日の東京・赤坂のサントリーホール公演で20回目を迎える。昨年末に傘寿を迎えてからも舞台に立ち続ける姿は、文字通りのレジェンドだ。(松本良一) 【写真】『ヴァイオリニストの第五楽章』前橋汀子著
「もっとうまく弾きたい、弾けるはずという気持ちは今でも強い。だからコンサートを続けてこられた」
80歳になっても2000人の大ホールで演奏できる体力と気力を保つ。演奏家冥利(みょうり)に尽きるが、それは努力のたまものだ。「私は天才ではないし、バイオリニストとして決して恵まれた身体ではない。曲を仕上げるのにも時間がかかるの」。その自覚の上で、いかに無理せずに聴衆に音楽を届けるかを考えている。
17歳でソ連に留学した後、米国でも学び、シゲティをはじめ世界的巨匠や名教師の薫陶を受けた。「名人が弾くと、心地よい音楽が聴き手の中に自然に入ってくるし、小品でも独自の味わいや性格が出る」。彼女独特の歌い回しは、彼らから受け継いだ財産だ。
小沢征爾ら一流指揮者や欧米の名門オーケストラと共演を重ねた経験も、現在の活動の糧となっている。
情熱的な演奏スタイルは年を重ねるにつれて変わった。「若い頃は1日に10時間以上練習し、本番の舞台では踊るように跳びはねながら演奏していた。でも、バイオリン演奏は長く続けると身体に大きな負担がかかる。知恵と工夫でコンディションを維持する方法を見いだした」
2005年から続く「アフタヌーン・コンサート」では、バイオリン・ソナタなどのメインの曲以外にクライスラーの小品なども交え、肩の凝らない音楽を披露している。
今回はブラームスのバイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」(ピアノ=ヴァハン・マルディロシアン)を中心に、パイプオルガン(大木麻理)との共演など新しい試みもある。
最近は演奏家として残された時間を意識するという。「ブラームスのバイオリン協奏曲をもう一度弾きたい。若い頃から弾いてきたけれど、どこか不完全燃焼だった。今なら違う手応えが得られると思う」