ボブ・ディラン&ザ・バンド『偉大なる復活』50周年 1974年の記録的ツアーを振り返る
再結成ツアーの先駆け
1974年1月4日のシカゴ・スタジアムでの2日目の模様も、今回リリースされるツアー音源で楽しめる。2日目の音源には、「Knockin’ on Heaven’s Door」のライブ初演のほか、それ以来現在まで二度と披露されていない「Hero Blues」の最後の演奏も収められている。ツアー初日とは異なり、ザ・バンドのレパートリーは、コンサートの前半と終盤の2箇所にまとめてミニコーナーとして演奏された。さらにザ・バンドの演奏にディランが加わることはなく、このやり方はツアーの最後まで踏襲されることとなる。 「多少の変更を加えながら、その後6週間にわたってツアーを続けた」とリヴォン・ヘルムは回顧録『ザ・バンド 軌跡(This Wheel’s on Fire)』で振り返っている。「昔の懐かしい曲を期待して集まる観客のために、当時のボブ・ディランとザ・バンドを自ら演じているような、奇妙な感覚に陥ることもあった。バンドのメンバーだけでなく、当然のごとくボブも同じように感じていた。商業的には成功したが、メンバーにとっては決してノリノリのツアーという訳ではなかった」。 ツアーの模様は、2枚組ライブ・アルバム『偉大なる復活(Before the Flood)』としてリリースされた。アルバム収録曲の大半は、ロサンゼルスのザ・フォーラムで収録された音源が使われている。同時にそのほかのツアー日程のあらゆる音源が、海賊版としてブートレッグ市場に出回った。ヨーロッパでは、ディランが保管している公式録音を含むすべての音源の著作権が、2024年内に切れてパブリック・ドメイン化することとなる。著作権保護の期間を延長するには、音源をリリースするしかない。従って2016年にディランは、1966年のライブ音源を36枚組セットとしてリリースせざるを得なかった。今回のリリースもまた、同様の措置だと考えられるが、おかげで1974年のツアーの全貌を楽しめる事となった。なお、今回のCD27枚組BOXセットにザ・バンド単独の演奏は収録されていない。 1974年1月4日当時は、32歳のボブ・ディランが立派な大人に見えた時代であり、9ドル50セントがチケット代としてはとても高額だった時代だ。そしてバスケットボール・アリーナでのコンサートが珍しかった時代でもある。ボブ・ディランとザ・バンドをきっかけに始まった60年代への懐古ブームはその後も続き、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングも同じ年にスタジアム規模のツアーを行っている。しかし「ドゥーム・ツアー(破滅のツアーの意)」と称される程に評判は悪かった。とにかくボブ・ディランとザ・バンドが、その後に続くバンドの再結成ツアーのお手本となったのだ。 --- ボブ・ディラン 『偉大なる復活:1974年の記録』 2024年9月20日リリース
ANDY GREENE