『セクシー田中さん』田中さんが最後に選ぶ“生きる理由”は? “自立”した朱里の輝きも
“結婚向き”、“恋愛向き”。そんなふうに相手のことを棲み分けてラベリングしてしまう時点で、本当に相手の奥の奥までは覗けていないのかもしれない。 【写真】(安田顕)からのキスに思わず身を引いてしまう寸前の田中さん(木南晴夏) 『セクシー田中さん』(日本テレビ系)第9話では、田中さん(木南晴夏)と笙野(毎熊克哉)、朱里(生見愛瑠)と小西(前田公輝)の関係性が大きく動いた。 商社マンあるあるを詰め込んだようなチャラリーマン・小西はついに恋愛ゲームを卒業した。“男の学歴と年収は女の若さと美貌と等価交換”と言って憚らなかった彼が、朱里といると「落としてやろうって感覚もなくなってきて、ひたすらまったり」という感覚を覚えるようになったようだ。 朱里の方もこれまでは小西からの好意やプレゼントに心ときめきそうになると、それを無意識にも抑え込もうとする自動制御がかかっていた。それが“自分だけ”への特別なものだと確信が持てず、むしろ他の女性相手に実証済みの彼の手札の1枚にすぎないのではないかという疑いが晴れなかった。そんな朱里も、自分の夢を応援するために一生懸命選んでくれた小西からの誕生日プレゼントを素直に受け取れるようになった。 自分のやりたいことが見えずパッとしない毎日から抜け出せる道を“結婚”にだけ見出そうとし婚活に勤しんでいた頃の朱里は、「あれやらなきゃ、これやらなきゃ」といつも何かに急かされて「あれが足りない、これが足りない」と、相手と自分双方の不足部分にばかり目がいってしまっていたと振り返っていた。それが田中さんの影響でベリーダンスを始め、また田中さんにメイクを施す中で自分は「誰かの輝き出す瞬間がすっごく見たい」という夢を見つけた。そこからの彼女の日々は「あれが見たい、これが見たい」に変化してゆく。 “見せてもらいたい”ではなく“見たい”というところもミソだ。誰かに価値を見出してもらわなくても、隣にいる男性のステータスを自分の価値だと勘違いしてすり替えなくても、朱里は自分で自分のことを認められるようになり愛せるようになった。それこそを“自立”と呼ぶのだろう。どんどん変わりゆく朱里の姿に、小西も彼女のことを代替可能な恋愛ゲームの標的とも、隣に連れて歩くのにちょうどいいアクセサリーとも思わなくなっていく。 田中さんの気持ちにも大きな変化が見られた。母親・悦子(市毛良枝)の「死ぬまでにやりたい事」リストを叶えるために、お見合いの話を受け入れふみか(朝倉あき)と結婚前提で付き合うことになった笙野は、ダラブッカの練習にもすっかり顔を出さなくなってしまう。 スーパーで豚バラブロックの特売品を見つけて真っ先に笙野に教えようとLINEを送ろうとするも、一度打ち込んだ文章を消す田中さんの控えめな姿が切ない。しかし、こういう何気ない瞬間にこそ自分の生活にあまりに自然と溶け込みすぎた人こそが、実は自分にとってかけがえのない存在だったということに初めて気づくものなのかもしれない。何気ない瞬間に当たり前のように思い浮かんでくる顔があって、その相手に約束なんかしなくても会える日々がこれからも続くものだと思っていた田中さんは、笙野の不在をまざまざと思い知らされる。 そして“不在”に気づくということは、その相手がどれだけこれまで自分の生活の中に存在していたかを痛いほど思い知ることでもある。ふみかが挙げる「自由で寛容で女性に理解があって」という笙野像を聞いて、それこそが「田中さんが作った僕」であり、田中さんが自分の中にいることに改めて気付かされた笙野のように。 田中さんに影響を受けダラブッカを始め、彼女の窮地にはまだ十分に演奏できるスキルがなくてもそんなことはお構いなしにステージ上に飛び出し、体を張って彼女のコンディションが整うのを待ち続ける笙野の姿に、三好(安田顕)も田中さんのことを一気に意識するようになったようだ。ずっと自分のことを見てくれていた田中さんの瞳に、ここのところ練習にもお店にも姿を現さない笙野を気に掛け続ける寂しさがチラつくのを、三好が見逃すはずがない。 クリスマスイベントのステージの相手を自分がやると名乗り出て、そしてキスをしようとするも……あれだけ憧れていたはずの三好からの願ってもみない展開の渦中に、田中さんの脳裏を独占したのは笙野との思い出だった。ここでも朱里が口にした「一つ一つは些細だけど、集めたら生きる理由になる」という言葉が思い出される。一つ一つは取るに足りないくだらない思い出でも、集めたらやっぱりかけがえのない、またとない思い出になり、自身の血肉となっていることを思い知らされる。 さて、図らずしも田中さんがクリスマスイベントでステージに立つ最終回は、クリスマスイブの放送だ。田中さんも笙野ももう既にそこにある自分の本音から目を背けることなく、自分たちらしい選択に手を出せるだろうか。彼らのステージ上での共演は叶うのだろうか。
佳香(かこ)