山田孝之・仲野太賀W主演『十一人の賊軍』──砦を守るのは札付きの悪党たち!【おとなの映画ガイド】
押し寄せる多勢の官軍、砦を守る剣士と荒くれ者たち、絶対絶命の危機──まさにこれぞ活劇時代劇!という『十一人の賊軍』が、10月28日(月) に開幕する「第37回 東京国際映画祭」のオープニングを飾り、11月1日(金) に全国公開される。『狐狼の血』で東映ヤクザ映画を復活させ、『碁盤斬り』で草彅剛主演の凜とした侍を描いた白石和彌監督の、山田孝之と仲野太賀を主演にした新たな挑戦。この秋、一番の話題作の登場といっていい。 【全ての画像】『十一人の賊軍』の予告編+場面写真(12枚)
『十一人の賊軍』
基になったのは、『仁義なき戦い』の名脚本家・笠原和夫が1964年に執筆した16ページのプロット(あらすじ)。脚本も書かれていたのだが、企画検討会議で、ラストシーンを読んだ当時の東映京都撮影所長・岡田茂(のちに社長)から「何考えとるんや!」と言われ、ボツにされた。頭にきた笠原さんは脚本を破りすててしまい、残っていないという。 それから約60年。プロットの存在を知った白石和彌監督がそれを探しだして感銘を受け、映画化を目指した。東映に持ち込むと、「これを我々がやらずしてどこがやるんだ」とプロデューサーたちは応えたという。東映には、ろくでなしの主人公が活躍する物語で一時代を築いてきた歴史があるじゃないか、というわけだ。 この作品には、そんな、まるで“プロジェクトX”みたいなインサイドストーリーがあるし、そこここに、映画マニアを興奮させる材料があふれている。 時は江戸幕府から明治政府へと政権が移り変わる激動期の1868年、徳川慶喜を擁する旧幕府軍と、薩摩・長州藩を中心とした新政府軍(官軍)の間で勃発した戊辰戦争の真っ最中。 両軍に挟まれ、窮地に陥った新発田藩の家老溝口内匠(阿部サダヲ)が、藩の命運をかけて打った作戦、それは、山縣狂介(玉木宏)率いる官軍の進撃を藩の“砦”で食い止める、というものだった。 そのために集められた決死隊は、なんと10人の罪人。殺人、賭博、放火、密航、姦通など、当時の法律で死罪が確定した者ばかりだ。「勝利すれば無罪放免」という条件で出兵してきた彼らにとって、これはまさに生き残りを賭けた戦い。 映画ファンならずとも、幕末の歴史好きは、新発田藩を含む31藩で結成された旧幕府側の「奥羽越列藩同盟」と官軍との熾烈な戦いのなかで起きた「新発田藩の寝返り」という戊辰戦争の秘話にきっと興味をそそられると思う。 同盟軍に従順なふりをして、最後は官軍側に寝返り、勝ち組になる算段。実は、砦の決死隊は、準備が整うまでの時間稼ぎ、いわば捨て石だったのだ。 そんな歴史背景が、この映画では冒頭にわかりやすく映し出されるので、歴史に詳しくないって人もこの世界にどっぷり浸れる。 “砦作戦”を決めた家老の内匠(阿部サダヲ)、命令を受けて決死隊に加わる剣の達人・鷲尾兵士郎(仲野太賀)、死罪のところを狩りだされた駕籠かきの政(山田孝之)、この三人の動きを中心に、ストーリーが展開されていく。 砦を守る集団の戦い、といえば、『七人の侍』『十三人の刺客』といった集団抗争時代劇の名作を彷彿とさせる。 その成否は、集められたメンバーの魅力にもかかっている。本作でも、ドラマが進むなかで決死隊の面々のユニークなキャラクターが浮き彫りになっていく。いい役者をみつけてきたな、と思わせる渋いキャスティングだ。 山田扮する政をはじめ、いかさま賭博師の赤丹(尾上右近)、花火師の息子で脱獄幇助をして捕まったノロ(佐久本宝)、檀家の娘を犯した坊主・引導(千原兄弟の千原せいじ)、ロシアへの密航で捕まったおろしや(岡山天音)、一家心中で生き残った農民・三途(松浦祐也)、姦通の二枚目(一ノ瀬颯)、辻斬り(小柳亮太)、強盗殺人の爺っつぁん(本山力)、そして火付けで罪人になったなつ(鞘師里保)の10人。個性的な面々であれば当然の内輪もめがおこり、すきあらば逃げようとするわけで、決して心ひとつでないところが面白い。 千葉の鋸南町に作られた砦のオープンセットもみどころのひとつだ。東京ドーム1個半ものスペースに、全長30メートルの吊り橋をはじめ、大門、本丸、物見櫓がまるで実在したかのように出現した。吊り橋の下には川がつくられ、VFXが加わると大渓谷のなかの難攻不落の砦となる。 白石監督から美術チームに伝えられた吊り橋のイメージは、名作『恐怖の報酬』。たしかにあの、今にもおちそうな雰囲気がよくでている。 さらに、時代劇ファンとしての白石監督のこだわりも。 アクションシーンで参考にしたというのはサイレント映画の『雄呂血』、小林正樹監督の『切腹』『上意討ち 拝領妻始末』といった古典。たしかに、仲野太賀のチャンバラにその影響をみてとれるし、元剣術家の爺っつぁんを演じる本山力(東映剣会所属のプロフェッショナル)が活躍するシーンは、えーっ、この人誰? と思わせる迫力だ。 時代劇の楽しいところてんこ盛り! よく作ってくれた、と思う。60年前ボツを宣告した岡田元社長も、それに怒って脚本を破りすてた笠原和夫さんも、このラスト、この出来なら、満足してくれるのではないか。 文=坂口英明(ぴあ編集部) 【ぴあ水先案内から】 笠井信輔さん(フリーアナウンサー) 「……なぜ「11人」の賊軍、なのか? それは観てのお楽しみ。」