総支援額は3億円を突破…村上隆が救世主となるか、日本アート界の未来
■ 1枚220万円も…高額転売されるトレカ
京都で開催中の現代美術家・村上隆による大規模展覧会『村上隆 もののけ 京都』(京都市京セラ美術館)が、さまざまな面で注目を集めている。 【写真】圧巻…会場にはカードがずらり 開幕前の記者会見で村上が、「日本での個展はこれが最後になるかも」と言及し、出展作品約170点のうち9割近くが新作の大作という話題に事欠かない同展。なかでも注目は、展覧会に「ふるさと納税制度」を使った初の試みと、その返礼品として登場したトレーディングカード(トレカ)付き入場券だ。 村上の初トレカといえば、2023年に販売され、現在、転売市場で高額取引されている「108フラワーズ」をご存じの方も多いのではないだろうか。今回の返礼品のカードは、同展の新作制作にあてる資金のため、京都市と協力した「ふるさと納税」限定のもので、総支援額は3億円を突破したという(2月2日時点)。 そして同展開幕後、先着5万名にプレゼントされる限定トレカ(全12種類)は3日目にして配布終了の事態に。入場整理券が配布されるほどの大行列のなか、何度もループする転売ヤー集団の問題行動と現場の大混乱ぶりを伝えるSNSがニュースになったほどだ。 もちろん、ふるさと納税の返礼品の限定トレカ(全12種類)も開幕前から話題をさらい、SNS上では、トレカ投資家のアカウントが各カードの買い取り価格を明示していた。現在、メルカリを確認すると、ふるさと納税限定の最高レアランクカード『727の言い訳』には、220万円の値段が付いている。
■ アートを含む文化事業推進に「ふるさと納税」を
村上は、「とにかく日本の人は、アートによってお金が動くことを敵視する社会的通念がある」と、自身のYouTubeチャンネルのなかで問題を提起し、アートとカードの高騰メカニズムについて解説。その背景として、日本の風土にオークション文化や資本主義そのものが馴染んでいないと考え、アートがオークションなどの西欧社会で培われたものだからとの見解を示している。 アート販売には、ギャラリーによる「プライマリーマーケット」(一次市場)と転売業ともリンクするオークションなどの「セカンダリーマーケット」(二次市場)がある。その視点から見ると、希少価値の高いレアカードに高値が付く現象は、アート作品がオークションで高騰することと同じように捉えることができるのだ。 アートには文化的なメディア、そして、コレクションとしての面があり、どちらも人間の脳を刺激し、興奮させる要素を持つ。村上は、「カードをコレクションする中毒症状は、社会に容認された悪ともいえ、その一番強烈な中毒症状を起こすのがアート」と説明。「期せずして、日本の方たちもいよいよカード産業で開眼したのではないか」と持論を語っている。 今回、自身のトレカが持つ魅力と「ふるさと納税制度」の使い方は、展覧会の資金集めに成功しただけでなく、大きな広報効果をももたらしたと言える。開幕前、「日本全国の文化を存続させるため、美術館存続や文化事業推進に『ふるさと納税システム』を使って頂きたい。その第一歩をこの展覧会をつかって創り上げたことを誇りに思います」と力を込めた村上。文化事業の予算が削られていくなか、今後はアートのみならず、さまざまな文化事業の分野で、この制度の利用が期待される。 同展は、「京都市京セラ美術館 新館東山キューブ」にて9月1日まで開催、料金は一般2200円ほか。なお、「京都市ふるさと納税特別返礼品プラン」は3月31日まで申し込み受け付けが可能。これを活用したことで、京都市内在住・通学の学生(高校生・大学生)の入場料無料化が実 現している。 取材・文・写真/いずみゆか