弟子屈に国内最東端ワイナリー誕生【弟子屈】
北海道の弟子屈町で今月、国内最東端のワイナリー「弟子屈ワイナリー」が誕生した。手掛けるのはセナヴィーノ(弟子屈原野789、高木浩史代表取締役社長)で、釧路、根室管内でワイナリー開設は初。同社は国内では初となる温泉を活用したブドウ栽培とワイン醸造を進めており、今秋から待望の自社製造が始まる。 道内のワイナリーを含む果実酒製造免許場は64カ所(2023年10月現在)。同社は、小規模ワイナリーの開設が可能となる国のワイン特区(構造改革特別区域計画)で22年に指定を受けた「弟子屈・鶴居ワイン特区」制度を活用し免許を取得した。ワイン特区は、酒造免許取得に必要な最低製造量を年間6000㍑から同2000㍑に緩和。同特区では弟子屈、鶴居産ブドウを使用することで地元産ワインを名乗ることができる。 高木社長(43)は福岡県出身。15年9月に弟子屈町の地域おこし協力隊として着任し、ワイン用ブドウ栽培と醸造の技術研さんに励んだ。任期を終えた18年から、町内でブドウ栽培と並行し温泉熱を使った野菜栽培などを手掛ける中、22年に法人化しワイン製造に参入。23年からは施設整備を進めてきた。現在は町内3カ所計6㌶の畑で、ヤマブドウ系の品種を中心にブドウを栽培。昨年12月には十勝管内のワイナリーへの委託醸造でロゼワインとロゼスパークリングワインを初めて販売した。 同社のブドウは完全無農薬。高木社長は「無農薬を可能にしているのは弟子屈の気候と風土に加え、温泉水を活用しているから」と話す。ブドウがもともと持っている野生酵母は、発酵することで複雑な風味や深みのある味わいになり、無ろ過で濁りや澱(おり)もうま味になるナチュラルワインを製造できる。同社ではブドウの搾りかすと弟子屈特産のそば殻を堆肥に使用することでさらに野生酵母が生き、豊かな土壌になるという。 畑ではそれぞれ成分の違う温泉が噴出する。温泉に含まれる成分が、生育にプラスに働くほかブドウの病気を抑制する効果があるとみられている。施設暖房も温泉を活用し、通年で温度を一定に保つことで安定した製造につながり、コスト面でも環境面でも優しい経営ができている。 同社は、東京農業大学オホーツクキャンパス食香粧化学科とも連携。野生酵母やワインの香気特性について研究を重ね、品質向上を目指しながら後進の育成にも寄与している。 同社の免許取得は今月11日。小嶋昭男代表取締役会長(75)は「ワインができないと言われてきた空白区でワイナリーができた。近年の温暖化もワイン造りにとっては追い風。個性ある高品質のワインを多くの人に知ってもらいたい」と目を細める。同社の名称はイタリア語でセナ=食卓、ヴィーノ=ワインの意味。ワインを手に食卓を囲むイメージで名付けた。高木社長は「品質向上に努め、地域の食材に合うワインを造りたい」と意気込む。 同社では7月、ワイナリー開設を記念して赤ワイン2種を発売。今秋から始まる初めての自社製造で名実ともに「弟子屈産ワイン」の製造に一歩を踏み出す。