佐野史郎、連ドラ撮影中に発覚した“血液のがん”多発性骨髄腫の予兆は「ずっと続いた腰痛」
口の中がただれ下痢で6~7キロ痩せる
その後再入院。造血幹細胞の自家移植を行う。 「身体に管を入れて、洗濯機の大きくなったようなろ過機で血液を循環させていきます。そこで細胞をとるんですけど、グレープフルーツみたいなきれいなピンク色をしてました。 投与すると美容にもよくて、僕も一瞬若返りましたね。髪の毛も増えたし、半年間くらいは肌がつるつるでした(笑)」 加えて抗がん剤による治療に取りかかる。用いたのは最も強いとされる抗がん剤で、やはり副作用に苦しんだ。 「下痢にもなるし、口の中がただれるので氷をずっと含んでいなければなりません。闘病中、6~7キロは痩せたでしょうか。 だけど、治らないのではないかという不安を感じることはなかったですね。飲むべき薬を飲んだり、目の前にあることをちゃんとやろうという意識でいた感じです」 医師の言いつけをきちんと守り、治療のためにすべきことをする。何とも模範的な患者で、息苦しいはずの入院生活も「慣れ親しんだ空気があるというか……。病院が嫌いじゃないことは確か」と笑う。 もともと島根に150年続く医者一家の生まれで、将来は医師にと嘱望されていた。 「幼いころから医師だった父の背中を見て育ってきたので、病院に行くと今でもどこかホッとするところがあって。だから医者の役にはやはり特別な思い入れがありますね(笑)」
退院後は体重・血圧・体温を毎日計り、体調管理に努めた。現場復帰も早々に果たし、入院時の遅れを取り戻すべく仕事に邁進(まいしん)している。しかし、そこでひとつ落とし穴が。昨年夏、急性腎障害を患い、緊急入院することに。 「退院後は炎症が起きないよう、食事に気をつけてはいたんですけど。わが家は和食中心で健康的なほうではあるけれど、やっぱり外食も多い。疲れもあったし、あと抗がん剤による腎臓へのダメージが少なからずあったようです」
もっと精力的に仕事をしていきたい
闘病から3年がたつ今、体調はと聞くと、「がんは寛解しました。ただ一度がんを発症した人は再発の可能性が高い。そこは覚悟の上ですね」 と淡々と語る。現在は定期的に通院しつつ、再発防止の維持療法が続く。 「今はこの身体の状態を維持していくことが第一。その上で一つひとつすべきことに取り組んでいくだけ。やりたいこと、やらなきゃいけないことがまだたくさんあって。俳優というのは他人を生きる仕事で、本当に難しい。 でもそれを探るのが好きなんでしょうね。もっともっと精力的に、まだまだ仕事をしていきたいという意欲は、前にも増して大きくなっている気がします」 佐野史郎(さの・しろう)●俳優。1955年生まれ。1992年TBS系金曜ドラマ『ずっとあなたが好きだった』で桂田冬彦(冬彦さん)を演じ、脚光を浴びる。その後も、ドラマ・演劇・映画・ドキュメンタリー番組・ナレーション・朗読など数多くの作品に出演するほか、映画監督としても作品を発表。 取材・文/小野寺悦子