【光る君へ】道長を導く陰陽師… “遅咲き”の安倍晴明はなぜ絶大な影響力を持っていたのか
バビロニアやメソポタミアとのつながり
ところで、道長ら平安貴族たちは、仏教を厚く信仰するケースが多かった。それは奈良時代における鎮護国家の仏教とはうって変わり、あくまでも個人の救済を担ってくれるものとしての仏教だった。具体的には、病気や災厄を払いのけ、現世において命を長らえるためには、密教の加持祈祷に頼った。一方、死後において救済されるために、浄土教の教えにしたがった。 道長はこれらの二つに大きく頼ったことで知られるが、同時に安倍晴明に全幅の信頼を寄せた。つまり、陰陽師は当時の貴族たちの信仰を補完し、現世および来世における救済を完璧にするための存在だったということもできる。 また、晴明は国家の官人である天文博士出身だから、彼の天体観察や占星術は「国家占星術」をベースにしている。前出の斎藤氏の著書によると、「国家占星術」の源流は古代中国にあり、古代中国にはインド系の占星術も伝わっていたという。そして、インドで発達した個人占星術はギリシャに起源があり、さらにギリシャ占星術のルーツをたどると、古代バビロニア、さらには紀元前3000年前後に栄えたメソポタミア文明にまで行き着くという。 安倍晴明の陰陽道は、じつは紀元前の西方の文明に源流があったというのだ。こうした星占いを通じた文明の交流史が、道長らの周囲に渦巻いていたと思うと、感慨深いではないか。 香原斗志(かはら・とし) 音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。 デイリー新潮編集部
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