毒矢を放ち続けられ、「ヤマアラシ」のようになった死体…アフリカの部族の処刑から考える、人間が家畜化した”残虐な”理由
人間の家畜化と「人を確実に殺す技術の進歩」の関係
当然、そうした小さな社会でも、“何らかの方法で”団結を維持する必要があった。暴力の独占がなくなったからといって、暴力がなくなるわけではない。古代好きの無政府論者や権威を嫌う自由至上主義者は国家という概念のなかった先史時代をうらやましがるが、狩猟採集民の平等なつながりはコントロールの必要がなかったと考えるのは間違いだ。 成人メンバーのほとんどが、次に自分が処刑の対象に選ばれることがないように、それぞれの集団で重視される生活規範を厳格に守りつづけなければならないという圧力にさらされたことも、少なくなかったはずだ。 人間の心身を変えようとする文化プロセスが始まったことで、死刑の実施が促された。人を殺すことは、つねにリスクを伴う問題だった。殺す相手にも、死にたくない理由があり、簡単には死んでくれなかった。解剖学を通じた一連の発見から、人類はおよそ50万年前に投射物を扱う能力を身につけたと考えられる。 加えて、大きくなりつつある脳がより多くのエネルギーを必要としたため、そのエネルギーを得るために肉の摂取量を増やす必要があった。しかし、肉を調達できたのは、チームの一員として槍を使った狩りができる者だけだったと考えられる。 加えて、正確に槍を投げるには、それに見合った身体能力も欠かせない。大型の哺乳類―たとえばほかの人間―を離れた場所から仕留められるほどのパワーで正確に投げるためには、肩、腕、腰、上半身が調和して動かなければならない。そして、発見された化石から推測するに、そのような身体の変化はこの時代には終わっていたと考えられる。 人間の家畜化は、人間をより簡単かつ“確実に”殺すことを可能にする技術的な進歩によっても、促されたのである。 『洞窟で遭難した「タイの少年サッカーチーム13人」の救出のため集まった「100を超える国家の人々」…赤の他人のために犠牲さえも払う「人間のモラル」の謎』へ続く
ハンノ・ザウアー、長谷川 圭
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