春風亭一之輔、好物は“鰹のたたき” 出席者全員が腹を下してもなんともなかったワケ
落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「鰹」。 【写真】元気すぎるキャラ?笑点を卒業した落語家といえば… 私は鰹が好きだ。たしか自分のmixiのプロフィールにも「好物」として「鰹のたたき」と書いていたような気がする。気がするのだが、パスワードを忘れてしまったし、今更ログインする必要性も感じないので真偽のほどはわからない。 校閲の人、べつに無理に確認しなくてもいいですからね。今からアカウント作ってマイミク申請されても、承認しようがないのです。 でも本当に好きなのだ、鰹。信じてください。 10年くらい前か。うちの師匠が寄席でトリをとった千穐楽の打ち上げ。私が鰹のたたきを注文した。だって好きだから。総勢8名なのに4皿も頼んでしまった。しょうがない、好きなんだもの。ひと皿に10切れくらいあったか。私以外の人は1~2切れ食べれば十分だったようで、ずいぶん余ってしまった。 「食べないならオレ、もらいます」 そらぁ言うよね、好きなのだから。 「好きだねー」「好きですねー」「食べすぎてお腹壊すなよー」なんて、鰹好きな私のことを皆がヒューヒュー!と囃し立てる。師匠も先輩も後輩もみんな私の鰹好きを羨んでるのかも。「そんなに好きなモノがあるって、一之輔、ホント羨ましい!」って。まぁ、べつに何言われてもかまわないよね。好きなんだよ! オレは鰹が! 「鰹が兄さんのことを好きかどうかはわかんないっすよ(笑)」
冷や水を浴びせるようなことを言ってくる野暮天もいるが、片想いでもいいのです。私が好きなんだということは鰹もわかってくれてるとは思うのだけど、決して鰹からの見返りは求めない。鰹は「みんなの鰹」なのだから。たまーにオレのそばに居てくれればそれで十分だ。 あっという間に一人でふた皿は平らげてしまった。好きだからねー、仕方ない。 翌日、私以外の打ち上げ出席者全員が腹を下した。熱が出て2、3日動けなかった者もいたそうだが、私だけなんともなかった。 原因は鰹ではないかと弟弟子が言った。全員が口にしたナマモノは鰹のたたき以外はなかったそうだ。悲しくなった。オレの鰹が……容疑者なのか。 「オレが注文して、オレが一番たくさん食べて、オレがあたってないのに、どうしてオレの大好きな鰹が嫌疑をかけられなければならないんだよ!(怒)」 「………いや、兄さんはお身体がご丈夫でらっしゃいますから……」 「お身体」? 「ご丈夫」? 「らっしゃいます」? こいつ普段そんな言い方したことねぇし、明らかに丈夫であることに羨ましさが込められていない口ぶり。 「そもそも、口に運んだ時になんか嫌な予感はしたんですよね」 「どういうことだよ!?」 「なんか、ヤバそうな臭いがするというか……あくまでも結果論ですけど」 「だからみんなあんまり食べなかったのか?」 「いや、他の人はどうだかわからないですけど少なくとも私はそうでした。1枚だけにしておいたんですけど……きましたね、ガツンと」 「鰹で確定なのか? みんなそう言ってるのか!?」